釣り過ぎると後が大変

チカやホッケなど、群れで移動する魚を対象とした釣りでは、時に思わぬ大漁に恵まれることがあります。そんなとき、釣り人はうれしさのあまり、夢中になってついつい必要以上に釣ってしまうのはよくあること。その結果、帰宅後はすぐにでもシャワーを浴びてベッドに倒れ込みたい気持ちをぐっとこらえて、台所で大量の魚をさばくはめになった、という経験がある人は決して少なくないのではないでしょうか。

寄生虫は内臓から身へ移る

釣り上げた直後のホッケの肝臓で見つけた寄生虫

一度でもそんな経験をすると、自宅に帰ってから魚をさばくよりも、釣り場でさばいていしまった方が楽なのでは?と考えるのも無理はありません。

自宅でさばくと、食べられない魚の内臓や頭、ヒレなどのいわゆる「アラ」は燃えるごみの日まで捨てられず、自宅に保管しなければならない煩わしさもあります。少しでも魚の鮮度を保っておいしく食べようと思えば、なるべく早く魚をさばきたいと思うのも当然です。

特に内臓は鮮度の落ちが早く、寄生虫の多くは魚の死後、内臓から身に移ると言われているので、釣り場で魚をさばくのは大いに意味があるといえるでしょう。

 

「魚のアラ」で海は汚れるのか

それでも「釣り場で魚をさばいてアラを捨てるのは海洋汚染につながるのでは」という声が一部から聞こえてきます。でもその程度で海洋汚染が発生するなら、毎日大量に魚が死んでいる世界の海はとっくの昔に汚染され、赤潮で埋め尽くされた「死の海」になっているはずです。

そうならないのは、海や川にはもともと自浄能力が備わっているから。量や濃度などにもよりますが大抵の場合、たとえ汚染物質が流れ込んでも、大量の海水や流れる川水で薄められて希釈され、拡散することで、汚染レベルは限りなくゼロに近くなります。

そもそも魚のアラは汚染物質と言えるのか?という問題もあります。釣り場で魚をさばいて出たアラなどの有機物は小魚や底生生物、微生物に食べられ、分解されて、いずれ消えてなくなります。魚はもともと海にいたのだから、その一部を海へ戻しても問題はないように思えます。

一般廃棄物に分類されるアラ

廃棄物は大まかに2種類に分けられます。大半を占めるのは工場や事業場などから排出される産業廃棄物です。

2018年に道内で排出された産業廃棄物は3917万㌧で、廃棄物全体の約95%を占めています(道調べ)。それ以外の廃棄物は一般廃棄物です。スーパーなどから出た魚のアラは産業廃棄物ですが、釣り人がさばいて出たアラは一般廃棄物に分類されます。すなわち家庭で出た生ごみと一緒です。

家庭の生ゴミを不法に捨てるのはもちろん駄目だと誰でも分かりますが、例えば、たかだか数匹のホッケのアラを海に捨てるのも駄目なのでしょうか?

 

340gの不法投棄でも犯罪に

産業廃棄物は道の管轄ですが、一般廃棄物は市町村の管轄です。道央圏のホッケ釣り場として1、2を争う人気の兜千畳敷がある泊村役場に聞いたところ、「釣り場でさばいた魚のアラを捨てるのは違法になります」(住民福祉課福祉係)との回答を得ました。

過去には道外の釣り公園で釣った魚のアラを岸壁から海に捨てた会社員が、海上保安部に摘発された事例もあるようです。捨てたアラは340gでした。この事例に関しては正直、法の運用がいかにもしゃくし定規との印象が拭えません。ですが法を犯した事実にも間違いはありません。

つまるところ、釣り場で魚をさばく行為自体は問題ありませんが、アラを海に捨てるのはやめておいた方がいいということ。

「ほんの少し残ったマキエや釣りエサも海に捨てず、持って帰って生ゴミとして処理しなければならないのか」という声が聞こえてきそうですが、身エサであれば冷凍保存できるし、生のイソメも塩で締めて冷凍すれば次回の釣行で使えます。

いずれにせよ、釣り人としては「後には何も残さない」ということを肝に銘じておくのがベストな対処法と言えそうです。