夏がやって来ると函館や松前、江差といった道南エリアの沖合に浮かぶいさり火が幻想的なイカ釣り。この釣りは手返しの速さが釣果を左右するのは言うまでもないが、その他にも重要なノウハウがいくつかあるので紹介したい。
船釣りに適したタックル選び
【サオ】
船のイカ釣りには夜中から朝まで釣る「夜イカ」と、朝から昼までの「朝イカ(昼イカ)」の2パターンがある。基本的にどちらも釣り方は同じだが、タナと仕掛けは異なる。
どちらのパターンもサオは120〜150号の1.7〜2.7mで、お薦めは7対3調子。イカ釣りは“しゃくる釣り”なので、8対2あるいは9対1といった先調子で短いサオがしゃくりやすい半面、サオが短くて硬いとばれやすい短所がある。
一方、長いサオは多点掛けが得意でばらしも少ないが、ずっとしゃくっていると疲労がたまりやすく、長時間振るのは大変だ。結局、どちらにも一長一短があり、好みで選ばざるを得ないのだが、迷ったときは現在の主流である120号1.8mを選ぶのが無難だろう。
【リール】
リールは小〜中型の電動でパワーのあるタイプ、ダイワなら300〜500番、シマノなら1000〜3000番が適切だ。手巻きのリールでもいいが、ポイント移動の際の巻き上げが遅く、同乗者に迷惑を掛けるので電動リールが望ましい。
小型電動リールは軽いので一日中しゃくっても疲れないが、中型電動リールは巻き上げパワーに余裕があり、多点掛けでもすんなり上がって来る。
大型の電動リールは、リール自体が1kg以上あり、一日中しゃくるのは無理があるので選択肢からは外さざるを得ない。
【ライン】
ラインは他の乗船者に合わせるのが基本。1人だけ太いラインを使うと、太い分だけ潮の抵抗を受けやすくなり、他の乗船者とオマツリになる可能性が増すので、事前に船長にラインの太さを確認しておきたい。基本的にはPEライン3〜5号が適切だ。
【オモリ】
オモリは180〜200号が標準的だが、これもライン選びと同様の理由で船長に事前に確認したい。オモリは形状によって沈下速度が変わるので、なるべく速く沈下するものが有利だ。
【仕掛け】
仕掛けは大きく分けて「直結仕掛け」と「ブランコ仕掛け」の2つがあるが、道南ではブランコ仕掛けが主流になっている。
直結仕掛けはサバなどの外道を避けやすい長所があるものの、イカの乗り(※イカが掛かることを「乗る」と言う)が悪く、ばれやすい側面がある。一方、ブランコ仕掛けはイカが乗りやすく、かつばれにくいので使用者が多い。
ハリは主に「ヘラバリ」と「さかなバリ」、「スッテバリ」がある。
ヘラバリとさかなバリは長さが11cm、14cm、18cmがあり、イカの大きさによって使い分ける。イカが小さいシーズン初期は、短い11cmからスタート。イカの成長に合わせて大きなサイズに変える。
大きなイカは小さなヘラバリなどでも釣れるが、強い引きで曲げられてしまう恐れがあるので、イカの大きさに応じて使い分けた方がいい。
スッテバリにはプラスチック製や布巻きがあるが、主流は布巻き。スッテバリは浮力があるため、ヘラバリなどで実現不可能な誘い方ができる。特に「おっぱい布巻きスッテ」のソフトなボディは、イカが違和感なく抱き付きやすく、ばらしが少ないが、太いボディが潮の抵抗を受けやすく、流されやすい欠点がある。
カンナバリは1段と2段があるが、1段はイカが乗りやすいがばれやすくもあり、2段はやや乗りづらいがばれにくい。
ワンポイント
『イカの取り込みは水中で袋を引くのと同じ!?』
イカはハリに掛かると足を広げ、体を大きく膨らませて抵抗するが、これは水中で袋を引っ張っているのと同じ状態となり非常に重い。電動リールのサイズは、イカの大きさとハリ数ヒットしたときの重さを考えてチョイスしよう。
イカ釣りに必要な色は青と緑
イカの視覚はモノクロの世界だと言われているが、青や緑はイカにとって認識しやすい波長であり、ハリはこの2色さえあれば大丈夫という考え方がある。
地元では「青があれば他はいらない」と語るベテランは多いが、個人的には青をベースに緑やケイムラ、ピンクなどを混ぜるのがお勧めだ。
一般的に夜はスッテバリ、日中はヘラバリやさかなバリがお薦めだが、一概にそれが正解とも言い切れないので、いろいろな仕掛けを持参するのがベター。その日の状況に合わせた仕掛け選びが大漁の第一歩だ。
初心者とベテランで差が出るハリ数
仕掛けのカンナバリはハリのかえしがないバーブレスフックで、たるませるとイカがばれてしまう恐れがある。
かといって速く巻き過ぎると、イカの足や身が切れてばれてしまうので、身切れせず、ばれない程度の速さでリールを巻くことが重要だ。
イカが釣れたときは、釣れたタナを覚えておくと仕掛けを再投入するときに、いちいちタナを探る必要がなく効率がいい。
イカが密集しているタナに合わせると次から次へと乗ってくるが、手返しが速くなければ数は伸びない。
ヘラバリなど仕掛けのハリ数を多くすると、一度に釣れる数は多くなるが、慣れないと取り込みで仕掛けが絡み、かえって効率が悪いので、初心者なら5、6本バリ。ベテランでも15本バリ程度にとどめておきたい。
違和感を感じたらすぐにリールを巻こう
マイカの群れが厚いと、仕掛けを落とし込んでいる最中に沈下スピードが遅くなったり、着底していないのに沈下が止まることがある。それらはすべてイカの当たりである。
慣れないうちは、少しでも「あれ? 何かおかしいな…」と思ったら、まずはリールを巻いてみることが大切だ。そんなときは経験上、イカが掛かっていることが多々ある。
ちなみに仕掛けの沈下中にイカが乗れば大抵下バリに、巻き上げ中に乗れば上バリに付いている可能性が高い。落とし込み中に乗ったとき、すぐにリールのクラッチを切って待つと「ドスン! ドスン!」と2匹目、3匹目が掛かる感触が伝わってくる。
サオをしゃくり上げているときに乗った場合は、ラインをたるませないようにしながらゆっくりリールを巻いたり、しゃくったりすると追い食いを誘発できる。
墨で汚れたハリにイカは付かない
イカは視力が良いと言われている。そのためか、ハリやラインに墨が付いているとすぐに釣れなくなる傾向が強い。
もしも墨でハリが汚れているのを見つけたら、すぐにブラシなどで洗い流そう。
何度も使い続けて傷だらけになり、ツヤがなくなった仕掛けも新品に交換した方がいい。ラインも釣行ごと新品に巻きかえるのが本来はベストだ。
釣れなくなったときは、電動リールの自動シャクリ機能を使ってもいいだろう(機能がない機種もある)。
また、マイカの取り込み中に誤ってハリを手に刺してしまう光景を往々にして見かけるが、そんなときに便利なのが革の手袋。手袋を履いていれば、ハリが刺さっても貫通せずに手を守ってくれる。
イカを取り込む際の注意点としては、海面にイカが姿をさらしたら一時的に取り込みをストップし、墨や潮を吐かせてから船上に上げよう。そうしないと自分だけでなく、他の乗船者の衣服などを汚してしまうことになるので注意を。
状況によって使い分けたい水中ライト
水中ライトはさまざまな釣りに使用されるが、船のイカ釣りも集魚用の水中ライトは必須アイテムの1つと言っていい。
2種の薬剤を混ぜ合わせることで発光するケミカルライトでもいいが、明るさが十分でなかったり、最悪外れてしまうこともあるので、電池式の水中ライトがお薦めだ。
光は色によって波長に違いがある。大きく分類すると水中では赤、緑、青の順に光が減衰する。すなわち赤の波長は浅い場所や近距離にしか届かないが、青はより深く遠くまで届く。船釣りには遠くまで届く青系がお薦めといえそうだ。
ただ青系のライトは外道まで集めてしまう恐れがあるので、イカが至近距離にいる場合は赤や緑のライトの方がかえって好都合な場合もある。
水中ライトは特に夜イカに効果的で、上手に活用することで釣果アップが図れる。ただし、サメが多いときは水中ライトを付けていると仕掛けを食いちぎられてしまうので、使用を控えよう。
夜釣りでは取り込む際に仕掛けが見えづらく、取り込みがもたつく原因になるが、水中ライトが付いていれば仕掛けの位置を把握しやすく、「手返しが命」と言われるイカ釣りで重宝する。水中ライトがオモリの役割も兼ねるので、糸絡みも減る。
イカの仕掛けをスマートに収める「ショットガン」はあると便利なアイテムだ。市販の既製品でもいいが、構造が簡素なので塩ビパイプで自作してもいい。
釣ったマイカは生きているうちに締める
マイカを釣ったら、鮮度を保ったまま持ち帰り、新鮮なイカ刺しを食べたいもの。そのためには生きているうちにイカを締めした方がいい(死んでから締めても意味はない!)。そこで便利なのが生け締めに便利なフジワラ(函館)のイカ活チャ器(かっちゃき)だ。使用方法は以下を参考に。
イカ活チャ器を使ったイカの締め方
❶マークを上にして活チャ器を利き手で持ち、胴体の内側に沿って差し込む
❷イカ活チャ器を素早く滑り込ませ胴体と内臓の連結部を断つ
❸神経が切れイカが透明になったら活け締め完了
活け締めした後、クーラーボックスや発泡箱に入れる際にイカを重ねて収めると鮮度が落ちる。溶けた氷の水に浸かっても活きが下がるので気を付けよう。通常は、専用の穴の空いた発泡箱やトレーに板氷を入れ、その上に新聞などを敷いて締めたマイカをきれいに並べよう。
夜のイカ釣りは「ライト焼け」に気を付ける
夜のイカ釣りでは、船は高ワット数の集魚灯をいくつも点灯させるため、日焼けならぬ「ライト焼け」になる恐れがある。
顔や首回りなど肌を直接ライトにさらすと、沖上がりする頃には日焼けを通り越して軽いヤケド状態になるので、帽子を着用したうえで、首回りなどは必ずタオルで保護しよう。
不意のロッド破損なども考えると、予備のタックルも忘れずに準備しておきたい。
ライフジャケットは桜マーク付きを着用
2018年(平成30年)2月以降、小型船舶の乗船者は例外なく桜マーク(国土交通省型式認証品)付きの着用が義務付けられたライフジャケット(フローティングベスト)。肩掛けの自動膨張式だとイカが吐き出す潮で自動膨張する恐れがあるのでウエストタイプの着用が無難だ。浮力材を内蔵する従来のタイプなら、そういった心配がない。