夏の釣りには「夏枯れ」という言葉もある通り、水温が上がって暑さが苦手な魚たちは深場に逃げ、残った魚も活性が上がらず、釣果を上げるのが難しくなる。だが道内でも冷たい寒流が流れるえりも地方だけは例外だ。重い荷物を担いで磯場を延々と歩くことなく、車のそばでのんびりとサオを出せるえりものクロガシラ釣りを紹介したい。
(本紙取材班)
日本海や噴火湾の釣り事情
日本海や噴火湾などで夏の日中にサオを出そうものなら、おそらくサオ先はピクリとも動かないに違いない。なにせ海水は生暖かく、海は底が見えるほど透明度が高い。
これらが表わしているものは、海中の酸素不足とプランクトン類の欠乏だ。どちらも魚の岸寄りには致命傷である。こうなると、魚の多くは酸素がより多い水深20m以深の海底に逃げ込む。エサがすみ着く藻場があることが、もう一つの条件だ。
このため、この時季の釣りというのは、岸近くで型物の魚が釣れない。しかし、えりも海岸は日本海や噴火湾とは少し事情が異なる。
えりも海岸の気温と水温
沿岸部の水温を決定付けているのは、主に日差しと気温である。日照時間が増大し気温が上昇すると、沿岸部の水温は上昇する。逆に日照時間が減少し気温が低下すると、水温は下降していく。
夏は日差しがきつく、一日中気温が高いこともあって、1年を通して一番水温が高い。日本海や噴火湾などでは27~28度を超える。
しかしえりも海岸は、この時季でも水温が20℃に達しない。というのも、夏季は濃霧の発生により日差しが遮られ日照不足になることが多く、夜は沖に低水温の親潮が流れている関係で気温が上昇しない。
夏季に活発に活動するヤブ蚊も、えりもにはほとんどいない。ヤブ蚊は夜間の気温が15℃以上にならないと活動できないが、えりもの夜は肌寒く、15℃以上になることがほとんどないからである。
日本海のクロガシラの釣期
さて本題のクロガシラだが、まずはなじみがある日本海のクロガシラについて簡単におさらいをしておく。
日本海のクロガシラ(ここでは積丹半島以南)は3月から釣れ始め、4月に一時魚影が薄くなり、5月に再び釣れ始め、6月に入ると姿を消す。
次に釣れ始めるのは10月ころで、11月くらいまで狙える。ここで気になるのは4月と7~9月、12~2月のいわゆる釣れない時季である。この時季のクロガシラはどこで何をしているのか。
クロガシラの産卵は主に3月。産卵を終えた雌はすぐにエサ取りを開始するため、3月は大型の雌がよく掛かるが、雄はほとんど釣れない。
というのも、雄は卵を守って縄張りから出ないからだ。クロガシラは極めて特異なカレイで、多くのカレイが卵を海中に広く拡散する分離浮性卵を産むのに対して、クロガシラはホッケやアブラコなどと同様、卵を岩のへこみなどに産みつける付着沈性卵である。
1カ所に卵の塊があると当然外敵に狙われやすくなる。そのため稚魚がふ化するまで雄が卵を守るのである。しかも1匹ではなく、5匹以上で。これが4月にいったん釣れなくなる理由である。
7~9月は高水温のため、12~2月は低水温のため、水深20m以深の深場に移動する。といっても何10kmも遠くに移動するわけではない。マガレイと異なり、泳ぎが達者でないため、岸からそう遠くない所の根に移動している。
えりものクロガシラの釣期
では、えりものクロガシラはどうか。産卵は4月下旬ころに行われる。このころ産卵を終えた雌がよく掛かる。
雄が釣れ始めるのはふ化が終わった6月ころで、その後はポツポツ釣れるが、8月に入ると海中の虫類やエビ類、小魚などが1年を通じて一番活性化するため、再び釣れ始める。
つまり今回の特集は、エサ取りを開始するはしりの時季に照準を合わせて、これを釣ろうという狙いがある。
えりものクロガシラの狙いどころ
日本海でクロガシラを狙う場合、なぎのときは岩場、しけのときは港という切り分けが釣果に結びつくことが多い。えりもはどうかというと、釣れるポイントの多くは港である。理由は主に2つだ。
1つは、えりもは波高で知られる。外海を狙おうにも波が高く、しかもうねりを伴っていることが多く、うかつにサオを出そうものなら、コンブなどの海藻類が絡みついてライントラブルになってしまう。よほどなぎの日が続いていないと狙うのは難しい。
もう1つは、えりもの港特有の藻場の存在だ。えりもの各漁港には、港内に藻場がたくさんある。藻場といっても、岩や消波ブロックに張り付くコンブやワカメではなく、地中に根を張るアマモ、スガモなどの海藻である。
これらは陸上から海に生活拠点を移した植物だ。根を張るため、藻場の海底は砂地ではなく、泥状の土となっている。土の深さは20~40cmほど。この中にはイソメなどの虫類やアサリなどの貝類、茎にはエビ類などがすみ着く。これを食べにクロガシラが港の中に入ってくるのである。
ただし難点もある。藻場の海底が泥状の土のため、しけなどにより港内に大量の波が入り込むと、海水の循環により泥状の土が流水にかき混ぜられて、港全体が濁ってしまうことだ。根や茎が剥がれ、港内を浮遊することも多い。従って港の中のクロガシラ釣りは、外海に波がない日を狙うのが定石となっている。
狙う時間帯は主に2つ。1つは朝夕のまづめを挟んだ前後の時間帯。もう1つは干潮から満潮へ移行する上げ潮の時間帯だ。潮汐表を見て、サオを出す時間帯を絞り込むことが釣果を得るための足掛かりとなる。
仕掛けとエサ
仕掛けは胴突き2本バリか遊動式のカレイバリがいい。海底にちぎれた海藻が浮遊しているようなときは胴突き仕掛け、浮遊していないときは遊動式仕掛けを用いる。
エサはイソメで、生と塩どちらでもよい。コマセカゴやコマセネットを仕掛けの上部又は下部に装着すると、当たりが早く取れるのでお薦めである。
なお、サオについては遠投の必要がないため、長さは3.5m以上、負荷重量20号以上のものであれば十分対応可能。
リールも小型でいいが、ライン(道糸)については、海藻類によるライントラブルを避けるためPEは使用せず、ナイロンを使用するといい。
クロガシラが狙えるえりも地方の漁港
●笛舞漁港(えりも町)
漁港中央にある突堤岸壁のA点がお薦め。車を岸壁に横付けしてサオが出せる。外防に当たる西防波堤が目の前にあるため、西防付近の船道に打ち込んでクロガシラを狙う。ただし船の出入りに注意すること。
B点は、南防波堤基部から230mほど歩くが、ここもお薦めのポイントで、至近距離に点在する藻場の周囲を狙うと、クロガシラがヒットする。
●えりも港
えりも港は、港内中央に南部家川の河口があるため、港全体に陸上のミネラルが充満している。このため藻場が至る所にあり、魚の寄り付きがいい。
A点は岸壁に車を横付けできる所だが、船だまり岸壁のため、漁業者の邪魔にならないよう配慮が必要となる。港内側へのチョイ投げ及び中投で、クロガシラやカワガレイ、カジカ、アブラコ、コマイなど多彩な釣りができる。
B点は、南部家川の左にある船揚げ場に釣り座を構える所で、正面への中投で、A点同様の釣果が得られる。ただしA点同様、漁業者の邪魔にならないよう配慮が必要となる。
●えりも岬漁港(えりも町)
襟裳岬から北へ約1.5kmの所に位置する。風が強いことで知られ、特に東寄りの風のときは大しけになりやすい。風向きに要注意の港である。
また、風がないときでも厄介な事象がしばしば起こる。濃霧の発生だ。視界が50mに満たないこともあるため、港内の車の走行にも十分な注意が必要となる。
ポイントとなるのは、漁港中央にある岸壁のA、B点。北防波堤基部にある船揚げ場の右の岸壁でも釣れる。
いずれのポイントも、岸壁に車を横付けしてサオが出せる。クロガシラは、足元への垂らし釣りやチョイ投げがよく、拾い釣りをすると数を揃えられる。投げ過ぎると当たりが遠くなるので要注意。
●庶野漁港(えりも町)
規模が大きい漁港で、多くの釣り人がサオを出せる。
お薦めは、西防波堤の港内側のA点。船揚げ場の基部から岸壁に設置しているガードレール(高さ1mほど)が切れる辺りまでが好ポイント。
至近距離に点在している藻場の周囲を狙うと、クロガシラがヒットする。車を岸壁に横付けできるので、サオの出し入れがしやすい。
B点もA点同様、車を岸壁に横付けしてサオが出せる。クロガシラは垂らし釣りかチョイ投げ。なお、コマイの群れが入っているときはコマイ一色になるので要注意。
●目黒漁港(えりも町)
漁港の中央にある岸壁A点がお薦め。岸壁に車を横付けしてサオが出せる。投げずに垂らし釣りかチョイ投げでクロガシラが釣れる。まれにマツカワもヒットする。
北防波堤と東防波堤の境にある曲がり角のB点も、A点同様、垂らし釣りかちょい投げでクロガシラを狙う。
この2つの防波堤は車の乗り入れが可能で、しかもUターンが楽にできるほどケーソンの幅が広いため、サオの出し入れがしやすい。