現在、釣り人の間でオールドタックル(1970年代~90年代ぐらい製造のルアー、フライを中心とした釣り道具)の収集と使用は、マニアックな釣り分野とは言え一定の市民権を得ているようだ。釣り雑誌には、定期的にオールドタックルの特集が組まれて好評。またオールドタックルを題材とした釣り小説やタックル収集レポートも見受けられる。オールド製品を復刻したスピニングリールやフライリールの販売も好調のようだ。

【なぜ今オールドタックルなのか】
現在、40代や50代になった釣り人が子供の頃に憧れたタックルを経済力が付いた今、買い求めているケースが多い。現在48歳の筆者もこのパターンだ。その他に、20代の人でも、現代の没個性的なデザインの釣り具を嫌い、個性的でおしゃれに見える昔のタックルを好むケースもある。車の趣味で例えるならば、旧型のスカイラインをレストアして乗ったり、憧れの旧型外車を買い求めたりする行動に似ている。

【昔の収集方法】
筆者は高校に入学した1990年ごろからオールドタックルの収集を意識的に行っている。当時、在住していた釧路市では、大型量販店でもスウェーデンABU社のスプーンのトビーやエリップスは新品で手に入る状況ではあった。たまたま入った市内の個人経営の店で、当時でも珍しくなっていたABU社のスプーンのファセットを新品で購入したのが、収集にのめり込むきっかけ。その角ばった北欧を思わせるデザインに魅せられたのだ。当時は高校生だったので、自動車の運転はできずに、父親と一緒に道内各地の釣具店に行った時が、オールドルアーを手に入れるチャンスだった。

大学生になると、JRを最大限に駆使して道内の地方都市に出向き古い釣り具を探した。まずは、その地方の電話帳をコピーして釣具店の欄を見る。店の住所を確認し持参した地図に印を書き込む。後は体力にまかせて歩いて一店ずつ巡り、商品棚の奥に眠っている「お宝」を購入するのだ。90年代までは、道内各地に個人経営の釣具店が多く存在して流通在庫の外国製オールドルアーがまだ見られた。まれに古いロッドやリールもあった。

【情報こそ貴重な時代】
90年代前半には、まだインターネットは普及しておらず、オールドタックルの情報を集めるのにも苦労した。1番力になったのは、やはり釣り雑誌である。ルアー・フライ総合誌に連載されたオールドABUの記事は食い入るように見たし、フライ専門誌のオールドハーディーバンブーロッドの連載も毎回楽しみにしていた。

格好のいいオールドタックルは欲しい。しかし、かつてどのような商品がラインナップされていたかが分からなかった。大学時代には、帯広市内の釣具店で出会ったベテランアングラーと意気投合して、そのアングラーの友人宅まで押しかけ、所蔵のオールドタックルを見せてもらったことがある。

リールはABU社のアンバサダー5500Cとミッチェルの300。大型タックルボックスには、大量のオールドスプーンが入っていた。見せてもらうだけでも貴重な体験だった。また懇意になった札幌市内の釣具店では、70年代のABU社のカタログをコピーしてもらったこともある。これは貴重な資料となった。

90年代には、釣り雑誌に名刺大の広告で中古のオールドタックルを販売している店の情報が載ることもあった。そこに電話を掛けて在庫状況を直接聞くか、返信用の郵便切手を入れた手紙を書いて在庫一覧表を送ってもらうのだ。欲しいタックルがあった場合、代金を銀行振り込んで商品を郵送してもらう。これは商品の状態がよく分からないので賭けの部分もあった。

当時は今ほどリサイクルショップが充実しておらず、中古釣り具の流通も少なかったように思える。その状況の中で、オールドタックルを手に入れるのには、非常に困難が伴ったのだ。

【インターネット時代の到来】
オールドタックルの収集に変化が起きたのは2000年以降、インターネットの普及とオークションサイトの流行によるものである。情報が簡単に手に入るようになり、個人売買で珍品も購入できるようになった。

ネット上には、オールドタックルの専門店も見受けられて、お金さえあれば、どこにいても欲しい物が手に入る時代になった。便利にはなった。しかし、一抹の寂しさも感じる。90年代、埃の被った商品棚の奥から「お宝」を発掘した時の喜びは、もう味わえないだろう。
(本紙・渋谷 賢利)