南富良野町のかなやま湖では、夏をへてパワーアップしたイトウをはじめとするターゲットが、冬を迎える前に積極的にベイトを追う。この、「秋の第2のハイシーズン」を楽しむためのポイントやお薦めのタックルを紹介する。
(白土 髙利) ※写真・村上隆行
かなやま湖とはどんな湖か
金山ダムによって作られたかなやま湖は、道内でも有数の湛水面積(920ヘクタール)と総貯水容量(約1億5千万立方m)を誇る大きな湖だ。湖の周辺はトドマツやエゾマツなどの原生林で覆われ、自然豊かな環境に恵まれる。同湖の水源である石狩川水系空知川は、同水系の支流の中で最も長く、最も広い流域面積(2618㎢)を持つ1級河川である。
豊富な水源を有する同湖にはニジマス、アメマス、サクラマス、オショロコマなどの他に、ワカサギやコイ、ウグイなど多くの魚類が生息している。中でも一番の注目は、なんといっても「幻の魚」と呼ばれるイトウだ。イトウはサケ科魚類に属する日本最大の淡水魚で、同湖には体長1m以上の個体が生息しており、まさに釣り師の夢が詰まっていると言っても過言ではない。
体長1mに達するまでに15年前後を要するイトウは、河川内食物網の頂点に君臨する最高次捕食者で、上流域から下流域まであらゆるエリアに生息。成長段階に応じて捕食対象が変わり、体長15cmほどになるまでは主として水生昆虫を捕食する。体長が30cmを超えると魚食性が強くなり、大型になるとネズミやヘビなどの小動物を捕食するほど貪欲となる。つまり、イトウが健全な状態で生息していることは、その流域の生物多様性が維持され、豊かな自然環境が保たれている証と言えるだろう。
南富良野町では、この貴重な資源を守るために「南富良野町イトウ保護管理条例」を制定しイトウを保護している。なぜ町がイトウ保護に乗り出したのかといえば、年々数を減らしつつある貴重な魚が、これから先も世代を重ねていけるようにしていくため。国内における野生のイトウは、かつては道内全域と青森県や岩手県など本州の一部に生息していたが、現在では道内の限られた地域にしか生息していない。
1950年以降の高度経済成長に伴い、河川氾濫を防ぐための改修工事が各地で進み、イトウの居場所や産卵場が消失。個体数が激減した経緯がある。現在では環境省レッドリストの絶滅危惧種IB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に指定されている。しかし法的な保護措置はほとんどなされておらず、町は2009年4月から「南富良野町イトウ保護管理条例」を施行。積極的なイトウ保護の効果は如実に表れ始めている。
この多大な功績と努力は、これからの北海道の釣りシーンにも大きな影響を与えるに違いない。同湖の冬の風物詩である氷上ワカサギ釣りの資源確保を目的に毎年、町がワカサギの卵を放流中。今年も5月1日と5月14日に合計約6000万粒の受精卵を放流した。放流された卵は約40日で孵化し、翌年の冬に成魚となる。もちろん放流されたワカサギは、イトウや他のトラウトたちの貴重な栄養源になっているのは言うまでもない。
かなやま湖ポイント詳細解説
A【キャンプ場前】
遠浅のポイントだが、早朝の早い時間帯に魚の回遊コースとなっている。キャンプ場の近くで水上バイクが湖畔を走っていることが多いので、トラブルにならないよう注意がいる。水深の浅いシャローエリアなので、重心移動タイプのフローティングミノーをフルキャストし、ゆっくりリーリングすると効果的。良型アメマスなどがヒットする可能性があり期待が大きい。
B【鹿の沢川インレット】
鹿の沢川の合流地点は、早春と晩秋にヒット率が高い。イトウやアメマスは中型クラスが多いが時折、モンスター級の大型ニジマスがヒットすることも。リーリングは最後まで気を抜かず、いつ掛かってもいいように準備を整えておこう。小型のミノーやジグミノーなど10g前後の軽量ルアーが活躍する。
C【鹿越大橋周辺】
この辺りは複雑な流れと水流でポイントが形成されている。重い流れで土が削られ、足元からどん深になっていたり、水位の変動で階段のような段差の付いたかけ上がりが狙い目だ。ただし足元から急深の水辺には、不用意に近づかないようにしたい。岸際に魚がいた場合、足元でヒットすることも多く、水際から少し離れた場所からキャストし岸際を探ると、良い釣果に結び付く。10~15g程度のスプーンや小型ジグなどで幅広く探り、モンスター級からのコンタクトを待とう。
湖の釣りの魅力
トラウト天国と呼ばれる北海道は、豊富な水資源と豊かな自然に育まれた環境により、トラウトのエサとなる水生昆虫や陸生昆虫、小魚などのベイトが豊富で、同湖では自然産卵によって連綿と世代を重ねてきたネイティブトラウトが数多く生息している。そんな広々とした湖で目一杯ロッドを振り、フルキャストする解放感は格別だ。ルアーにどんな魚からコンタクトがあるのか、どきどきしながら期待を膨らませる時間も心地いい。いつどんな魚がヒットするのかは神のみぞ知るといったところだが、そういった緊張感がさらに感動を大きくする。かなやま湖へ足を運び、秋の紅葉に染まる雄大な景色と共に釣りを楽しめれば、もう言うことはない。
かなやま湖での注意点
同湖の釣りで注意してほしいのは、足元から急に深くなっている場所があることだ。不用意なウエーディングは非常に危険である。水に浸かるウエーディングは自然との一体感を感じやすいが、常に危険があることを肝に銘じておきたい。安全にウエーディングを楽しむためには、浮力体付きのフィッシングベストの着用が望ましい。クマに対する備えも必要だ。秋が深まると湖畔にはヒグマが頻繁に出没する。もし見かけても慌てずに対処することが重要だ。走って逃げるとクマの狩猟本能を刺激するので、絶対に走らないようにしたい。出遭わないためには、クマ鈴を身に付け、必要であればホイッスルを吹き、できればクマ除けスプレーも準備しておきたい。同湖ではイトウ保護のため、シングルフックのバーブレスを使用し、優しいリリースを心掛けよう。
周辺の見どころ
「鉄道員(ぽっぽや)」ロケ地
浅田次郎原作、高倉健主演で映画化された。JR幾寅駅(劇中の設定は「幌舞駅」)周辺にはロケで使用されたセットが残されたまま。映画を観た人は、きっと記憶がタイムスリップしてしまうだろう。
かなやま湖へのアクセス
北海道のほぼ中央にある南富良野町は、札幌、旭川、帯広、新千歳空港などから比較的アクセスが良く、車での移動でプランに組みやすい場所といえる。 ●札幌市内から約160km(約2時間30分)●旭川から約100km(約1時間50分)●帯広から約90km(約1時間40分)●新千歳空港から約115km(約2時間)●富良野から約40km(約1時間)