水温も活性も低いこの時季の渓流釣りはリスクが高いが、開幕間もない釧路市阿寒川の有料区間なら、良型ニジマスがサオを曲げる可能性が高い。道外からも釣り客が多く訪れるこの川を、4つのフライの戦術で攻略するノウハウを紹介する。
(釧路・工藤 宏明)

阿寒摩周国立公園を流れる阿寒川は、阿寒湖から流れ出て、釧路市大楽毛(おたのしけ)で海へ流れ出る流程98㎞の2級河川である。今回は最上流部にある有料区間の「滝見橋」から「ピリカネップ取水口」までを、フライフィッシングの4つの手法で攻略するこつを紹介したい。
フライは徐々に小さくして「見切り」を防ぐ
阿寒川はニジマスの放流量が多く、ポイントによっては流れの中に容易にニジマスを見つけることができる。それゆえこの川ではサイトフィッシングが可能で私自身、この釣り方でたびたびニジマスを手にしている。
シーズン中の有料区間には常にアングラーが出入りするので、人に対する魚の警戒心は驚くほど薄く、釣り人の姿を見ても逃げない個体が多い。ただ不用意に近付くとフライに対する反応が極端に悪くなるので、ストーキングなどで慎重に近づくことを心がけたい。
流れに立ったらいきなりフライをキャストするのではなく、まず流れの中にいるニジマスをよく観察して、やる気があるのかないのかを見定めたい。初めに試すパイロットフライとして#12前後のヘヤーズイヤーニンフなどを使用するが、慣れないうちは視認性の高いエッグフライなどで反応を確認してもいいだろう。
筆者の場合は、まず大きめのフライからスタートして、徐々にサイズを小さくしていく。なぜなら徐々に小さくしていった方が、魚がすれにくいから。#12前後のフライのアイに通るティペットの太さは3Xが限界だが、3Xあればよほどのことがない限り、ティペットが切れる心配はないだろう。
有料区間ではシングルのバーブレスフックのみ使用できる。万が一ティペットが切られてもバーブレスなら自然にフックが外れるので、魚に対するダメージは少ない。もちろんきちんと釣り上げてフックを外してやるのがベストなのは言うまでもない。




フライは大きく異なるタイプに交換
ニジマスの近くにフライを投入すると必ず何らかの反応を示すので、目を凝らして魚の動きをよく観察しよう。フライを流してもまったく反応を示さない個体はやる気がないので、違う魚を探した方がいい。
反応は見せるがフライを食い込まない個体に対しては、フライの種類やサイズを替えてみるのが有効だ。こういう場合、筆者は#12のフライを#14前後のフェザントテールニンフに替えることが多い。
ヘアーズイヤーからフェザントテールに交換した場合、マテリアル(素材)の違いによりフェザントテールの方が速く沈む。そうすると魚のいるレンジにフライが到達するまでの時間に差が生まれるので、フライにウエートを入れていない場合、フェザントテールはヘヤーズイヤーよりも少し上流側へキャストする必要がある。
フライは基本的に好みでいいが、交換する時は形状が大きく異なるタイプに変えた方がいい。こうするとフライを見切られない可能性が高くなり、魚に興味を持ってもらえる確率が増す。
サイトフィッシングは水中の魚が見えなければ成立しないので、偏光グラスが必須だ。この釣り方は普段より魚との距離を詰める必要があるが、魚は真正面は見えにくいとされ、サイトで釣るとフライの流れるレーンによって魚の反応が異なる。魚の頭上にラインを流さないように気を付けていれさえすれば、釣り人が思っているよりもチャンスは多い。

魚が水面を割る瞬間がたまらないドライフライ・フィッシング
運良くライズを見つけることができたら、筆者は真っ先にエルクヘアーカディス#14前後をティペットに結ぶ。このフライはさまざまな状況に対応できる万能フライで、ハッチ(羽化)している水生昆虫が特定できないときに、パイロット的に使いたいフライの1つである。
今時季は陸生昆虫が少なく、ハッチしているのはカワゲラやコカゲロウ、ヤマトビケラなどの小型の水生昆虫が多くを占める。ハッチ自体は多くないのでニジマスもさほど水面を意識しないが、ライズするようなやる気のある個体は、ハッチする水生昆虫と極端にサイズが違わなければ、きっと何らかの反応を示すはずである。
このような場合、筆者はフライパターンよりも重要視していることがある。それはライズしているニジマスと自分の立ち位置だ。どこにフライを投げ、どのように流すかをイメージして、ニジマスを掛けた後にどこで取り込むかもしっかりとシミュレーションした上でアプローチするようにしている。
適切な立ち位置で釣ると、ニジマスを不用意に警戒させることもなく、安心してニジマスとのファイトを楽しむことができる。フライフィッシングだけでなく、どんな釣りも、立ち位置とランディングポイントを想定しておくのは重要なテクニックであり、初心者と釣行する際はまず初めに伝えておくべきであると筆者は考えている。
ドライフライで釣る際のロッドは7フィート半~8フィート半前後で4~5番の、バットのしっかりした物が良く、リーダーは3~4X。ティペットは5Xより細いとラインブレークの危険性がぐっと高まるので使わない方が無難だ。

ドライフライフィッシングで真っ先に使用するエルクヘアカディス


強いバイトに心拍数急上昇! ウエットフライ・フィッシング
ウェットフライの利点は、水面を意識している魚も、水中を意識している魚も、どちらにも対応できること。ドライフライほどナチュラルドリフトに神経質になる必要がなく、フロータントのメンテナンスも必要ない。
フライは好きなパターンでいいが、筆者はマーチブラウンやソフトハックルなどが好み。これらのフライをできるだけナチュラルに漂わせるが、ドライフライよりも操作が容易な半面、ウェットフライで当たりを取るのは少しこつがいる。
「手元にゴンと来た!」などといった分かりやすい当たりを感じたときは、魚がフライをくわえて反転していることが多く、合わせるのは比較的容易なことが多い。その半面、ラインスラックの影響などで微妙な当たりを見過ごしているケースは意外に多い。
私たちは「当たり」という情報を視覚や手の感触から得ているが、疑似餌はあくまで擬似餌。魚がフライをくわえても、擬似餌であるがゆえにすぐ吐き出してしまう宿命にある。フライをすっかりのみ込んでしまうのはまれで、釣り上げてみたら口の皮1枚に辛うじて掛かっていた、ということも少なくない。
2そのため当たりを察知したら瞬時に合わせる必要があるが、手元に伝わる当たりは、条件の良い時にしか感じられない。この不具合を克服するには、見やすい蛍光色など視認性の高いリーダーを使うといい。
フライ周辺の水面を注視しつつ、リーダーの動きの変化を感じ取ることで、いち早く当たりを察知することができるようになる。ウエットフライで釣る場合、ロッドは8フィート半~10フィート前後の3~6番が扱いやすく、リーダーは最低でも4Xよりも太いもの。通常は2X~3Xを使った方が大物が掛かっても安心だ。

最も自然な状態でフライを流せるルースニング
日本で生まれたこの釣り方は何かと利点が多く、私自身も好んで使っている。この釣りは浮力のあるマーカーを使用。比較的容易にナチュラルドリフトが可能で、水面を流れるマーカーによってフライの位置が把握しやすく、当たりも取りやすい。
使用フライは、ウエート入りのヘヤーズイヤーやMSC、ビーズヘッド付きフライなど。ティペットにスプリットショットなどのウエートを付け、ノンウエートのフライを流すこともある。当たりは明確で、マーカー(インジケーター)が沈んだら合わるだけ。
慣れないうちは根掛かりとの違いが分かりにくいが、何匹か釣るうちに判別できるようになる。タックルはウエットフライのシステムが流用できるが、ドライフライ用でも対応できる。

流れの底にいる大物を狙い撃ち アウトリガー・ニンフィング
ここぞというポイントで使うことが多いシステムだが、重たいスプリットショットを使うため、慣れないとロッドを破損してしまったり、根掛かりの危険性が増す。私はあまりやらないが、ここ一番での実績が高く、筆者にとって「最後の頼みの綱」でもある。大まかに言えば、押しの強い流れの底にいる大物を狙い、大きく、重いフライをピンポイントで目の前に通すイメージ。これで掛かる魚はでかい。ロッドは9フィート以上、#5以上のロッドを推奨。太く短めのリーダーを使い、流れによってBのスプリットショットを1個もしくは2個増やす。扱いにくいシステムだが、良く釣れるシステムである。
ぜひ一度訪れてみては
阿寒川の有料区間は放流魚が中心で、シーズン中は釣り人も多く、魅力を感じていない人がいるかもしれないが、一度でも良型とのやりとりを経験すればきっと見方が変わるはず。機会があればぜひ一度訪れてほしい。

編集部注……有料区間は全域でシングルのバーブレスフックのみ使用可能。キャッチ&リリース区間(阿寒湖流出口〜雄観橋下流端)はエサ釣り、魚のキープ共に禁止。