時には900mを超す深い海の底から、1人では抱えきれないような大物や、鮮紅の鎧(よろい)をまとった可憐な高級魚を釣り上げる、中深海、深海のジギング。これほどの水深がありながら、手巻きの両軸リールで挑むこの釣りには、他では味わえない格別の釣趣と感動、充実感が味わえる。(林 誠)

中深海ジギングってどんな釣り?

ここ数年、にわかに注目を集めるジャンルの1つに中深海、深海ジギングという釣りがある。中深海とは、200〜300mほどの水深を指し、さらに深い水深300〜900m(!)はスーパーディープと呼ばれている。

そういった深い場所に生息する魚を、こともあろうに手巻きの両軸リールで果敢に狙うチャレンジングな釣りが、中深海ジギングなのだ。

道内で釣れる主なターゲットといえば、キンキやメヌケ類、カラスハモ、アブラガレイ、カラスガレイ、ソコダラ科の魚、アブラボウズなどが挙げられる。以前はエサ釣りでしか狙えなかったが、現在はジギングによるスローピッチジャークで〝狙って釣れる〟ターゲットになっている。

リールは、船釣りのブリやサクラマス、一般的な根魚で使用する物で代用できるものの、中深海より深い場所を狙うタックルは、いくらか異なる部分がある。

 

水深300mの手巻きが苦にならない!?

道内における中深海や深海の釣りは、水深の違いや季節によって釣れる魚が変わってくる。海には水面に表れる「見える潮目」と、水中に存在する「見えない潮目」があるが、中深海ジギングに影響を与えるのは後者の方。

いわゆる2枚潮、3枚潮と呼ばれる水中の潮目は、中深海および深海の釣りでは少しばかり厄介な存在である。潮が複雑になると、狙ったポイントにジグが届かない可能性が出てくるからだ。

そのためジグは重めのジグを用意するのが無難。ただし重たいジグで中深海や深海を攻めるとなると、相応の体力が要求される。

ちなみに筆者がオフショアジギングを始めたきっかけはブリだが、最初の頃はポイントを移動するたびに、手巻きでジグを回収するのが苦でならなかった。たかが水深100m未満で、だ。

だが慣れというのは恐ろしいもので、2回、3回とスーパーディープと呼ばれる領域を経験すると、中深海の水深ですら浅く感じてしまう。要するに、慣れてしまえば水深200〜300mを手巻きで探ってもまったく苦にならない、ということだ。

 

感動が味わえてメリットも多い手巻きリール

それでも船の移動時にどうしてもジグの回収が大変だと感じたり、体力に自信のない人は、電動リールを使用するのもあり。電動リール最大のメリットは、ジグの回収が楽で、カウンターで水深を把握できること。

ただ手巻きのリールでも、慣れてくれば電動リールより早くジグを回収できる場合があるし、何といっても深い海で掛けた魚を電動リールの力を借りず、苦労しながら釣り上げたときの高揚感は格別。この感動を味わいたいなら、リールは手巻きの両軸リール1択だ。そんな両軸リール派にお薦めなのがSOM(スタジオオーシャンマーク)社のブルーヘブンL120HIである。

この釣りではハイギヤよりもローギヤ(パワーギヤ)リールの方が巻き上げが楽。手巻きリールは、ジグの回収こそ慣れなければ辛いと感じるが、潮の変化や小さな違和感を感じ取れることが最大のメリットといえる。

メヌケ類は底から100mほど浮くこともあり、潮の変化がある場所を重点的に攻めることで釣果につながるケースもある。

    スタジオオーシャンマーク社ブルーヘブンL120 hi

 

水圧のかかるラインは伸び率の低さで選ぶ

ラインは対象魚によって太さが変わる。中深海や深海の釣りは、ジグやラインにかかる水圧がすごい。水深200mでは1平方センチメートル当たり約20kg、900mでは約90kgもの圧力がかかる。

ラインの強度や号数も大事だが、中深海ジギングでは伸びの少ない低伸度ラインを使うことが非常に重要になる。ラインの伸び率が1%変わるだけで、ジグが動いているのか動いていないのか判断できなくなってしまうことがあるからだ。

水中は空気中に比べ約790倍の摩擦抵抗があると言われており、潮の影響を極力減らすためにも、水切れのいいラインは必須だ。

筆者はピュア・フィッシング・ジャパン社のバークレイファイヤーラインカラードを愛用している。他にはサンライン社のPEジガーULTスローピッチジャーク専用も水切れが良く使いやすい。細いラインを使った方がもちろん感度がいいのは言うまでもない。

ピュア・フィッシング・ジャパン社のバークレイファイヤーラインカラード
  サンライン社のPEジガーULTスローピッチジャーク専用

 

水深300mの手巻きが苦にならない!?

この釣りにおいて感度は非常に重要だが、対象魚によってはラインを細くするメリットがないだけでなく、細くしたことでラインブレイクが発生することもある。

メヌケ類は、釣り上げると船から離れた場所にポッカリ浮くことが多々あり、その際、他の人とラインが絡んで切れてしまうことがある。

長さに余裕のないラインが高切れしてしまうと、その時点で釣りを諦めざるを得ないため、リールには1200mラインを巻いておくことをお薦めする。

予備の替えスプールやリールを用意しておけばさらに安心だ。私は替えスプールや予備リールを常に3、4セット持ち込んでいる。

手前が予備の替えスプール。ラインは2号を1200m

 

アブラボウズに適したテーパーアシストフック

ジグは、いろいろなメーカーで1500gまでがラインナップされている。基本的には対象魚や水深で重さを決め、グローパターンを含め幅広く用意しておきたい。

フックは、フロント2本とリア2本、またはフロント1本とリア1本の組み合わせがいい。アブラボウズを狙う場合は、テーパーアシストフックをフロントとリアに各1本付けている。

テーパーアシストとは、フックに付いているラインが、フックに近づけば近づくほど太くなるテーパー構造のラインで、フックがジグから離れすぎずトラブルが少ない利点がある。アブラボウズのように50kgを超えるような大型魚に最適なフックといえる。

フック形状は、ストレートポイントとカーブポイントのどちらでもいいが、刺さりやすい物を選ぶのはもちろん、シャープナーを携帯し常にポイントの鋭さを保つことが大切だ。

深海釣りの場合は使うジグの大きさを考え、近海ジギングで使用するアシストラインよりも長い製品を選びたい。なぜならアシストラインが長いと、海底でテーリング(フックがラインに絡むライントラブル)などのトラブルが発生した際に深い海の底からジグを回収しなければならず、再投入するとポイントを大きく外してしまう恐れがあるから。

その半面、長いアシストラインは根掛かりを回避しやすいメリットがある。

フックに近いほど太くなるテーパーアシストフック

 

すっぽ抜けが防止できるデンタルフロス

現在市販されている中深海、深海釣り用のフックは、アシストラインが7cmまでの製品が販売されている。市販されているほとんどのフックにはローリングスイベルが付いている。これは主に魚がばれることを防ぐのが目的だ。

リーダーはフロロカーボンの4〜14号を使用しているが、こちらも対象魚に合わせて最適な太さを選択する。私が使用するリーダーの長さは、中深海で約2m、深海で約3〜3.5m。

前述したように深い海ではラインに掛かる摩擦抵抗が大きく、伸び率も大きくなるので、メインラインとリーダーを結節するときは、リーダーにデンタルフロス2号を抱き合わせてからPRノットで結んでいる。

ここでいうデンタルフロスとは、釣り用のデンタルフロスで、歯間用ではないので注意していただきたい。特殊樹脂をまとったデンタルフロスで摩擦系ノットを組めば、すっぽ抜けを気にせず安心して深い場所へジグを落とすことができる。

これはリーダーを使用する他のジャンルでも使用でき、持っていても決して損はしない商品である。

釣り用のデンタルフロス。リーダーと一緒に結べばすっぽ抜けを防止できる

 

ロッドはハイピッチジャーク対応の硬めがいい

中深海ジギングのロッドは、スローピッチジャーク専用ロッドのラインアップがあるメーカーなら問題ないと思われるが、メーカーによってロッドの反発力が異なるので注意したい。

私はスローピッチジャークのメーカーでもあるディープライナー社のロッドを使い分けている。このシリーズは長さが4フィートから7フィートまで用意され、さまざまな状況に柔軟に対応することができる。

選び方としては、自分がどのようにジグを操作するのかによる。例えば、より大きくダイナミックにジグを動かしたいのであれば長いロッドを、繊細な動きを付けたければ短めのロッドを選ぶ。

感度を決める要素の硬さは、中深海と深海で少し異なる。250〜400m辺りの中深海でキンキを狙うときは、2〜4番が適していると思う。これはキンキの小さく繊細な当たりを確実に捉え、わずかな当たりも見逃さないための感度重視の選択。

一方、400〜500mを狙うメヌケであれば、そこまで感度を重視しなくてもいいので5〜8番が適切だろう。メヌケを狙いつつキンキも欲しいのであれば、4番という選択肢もありだ。

500〜700mの深海では、対象がメヌケやアブラボウウに絞られるため、ロッドパワーのあるディープライナーのマニアフェローズシリーズか、ハイピッチジャーク用の中でも硬めのロッドを選択するといい。