高級魚のマツカワが狙える季節が近づいてきた。そこで今回は、マツカワの生態を通して、狙いどころや攻略の仕方などを探り、その不思議な魅力にも迫ってみたい。
(本紙取材班)

 

驚異の成長スピードを誇る高級魚マツカワ

マツカワはマガレイやクロガシラと同じカレイの仲間である。ただ大きく異なるのは、その成長スピードの速さだ。

表をご覧願いたい。1歳で全長20cmとなり、2歳で35cm、3歳を過ぎると雄と雌で成長のスピードに差が出始め、雌は3歳で43cm、4歳で51cmまで育ち、8歳で68cmまで成長する。これに対し雄は3歳で40cmになるが、その後は成長スピードが鈍化。8歳で49cmと雌に比べ20cmほどの差がつく。これを日本海産の雌のマガレイと比較してみる。マガレイは1歳で2cm、2歳で8cm、3歳で12cm、4歳で18cm、8歳で26cmに成長するが、大きさで比較すると、同じ雌のマツカワよりも1歳で18cm小さく、2歳で27cm、3歳で31cm、4歳で33cm、8歳では42cmもの差がつく。いかにマツカワの成長スピードがケタ外れに速いか、お分かりになるだろう。

マガレイの成魚との成長スピード比較

成長スピードは、産卵可能な成魚で見るとさらに分かりやすい。雌に着目すると、マツカワが成魚になるのは4歳で、このときの大きさは51cm。一方、マガレイも4歳で成魚になるが、大きさは18cmだ。共に4歳未満は未成魚だが、マツカワの場合、50cmでも未成魚というのは驚きだ。

何歳で成魚になるかは自然界では非常に重要な生存戦略の1つである。成魚になるまでの期間が短か過ぎると十分成長できず、卵や精子が不完全になる恐れがあり、逆に期間が長過ぎると、世代交代が遅過ぎて環境の変化に順応できず、絶滅の危険性が伴う。おそらく4年がカレイ類にとって最も種の保存に適した年数なのだろう。現在のカレイ類は「4年で成魚になるという生存戦略」を選択した共通の祖先から枝分かれし、今日に至ったと推測される。

 

マツカワの稚魚100万匹の大量放流

マツカワ釣りを考えるにあたって、一番頭に入れておかなければならないのは、マツカワはクロゾイなどと同様に『育てる漁業』の対象魚という点だ。希少種というだけでなく、味もことのほかおいしいため、市場では高値で取り引きされる。このため水産試験場(以下「水試」)では、2006年からえりも以西の日高、胆振、渡島東岸の32カ所で毎年100万匹を放流している。その際、マツカワの追跡調査を行い、これまで謎だった生態がつまびらかになってきている。ここでは、釣りに関係すると思われる事柄をピックアップし、その生態に迫ってみたい。

 

カテゴライズで見えるマツカワの生活域

マツカワの生態に関して最も注目したいのは生活域(エサを捕食して成長するエリア)だろう。放流場所にとどまるのか、あるいは他の海域へ移動するのか。これは大きさによって3つに分類すると分かりやすい。本紙では魚体の大きさで3つにカテゴリー分けを行い、それぞれの特徴を整理してみた(ただし分類BとCは雌に限定)。

 

マツカワの産卵行動と産卵期の謎

ここでは成魚の分類Cについて掘り下げる。特に産卵の生態や産卵場所が分かれば、その前後の動きが推定できるからだ。これまでの試験研究で判明しているのは次の通り(一部、編集部が加筆)。

❶産卵時期は3~5月。宮城県や岩手県沖の黒潮と親潮がぶつかる海域(以下「三陸沖」)の水深200m以深の深海で行われる。
❷産卵期間は30~40日間。排卵は間隔を空けて10回程度行われる。
❸産卵場所では常に雄と雌が一緒に行動。
❹分離浮性卵で比重が軽く、一つ一つが分離して海中を漂う。親魚は卵を守る必要がないためすぐに産卵場を離れる。

 つまり、51cm以上の成魚は産卵のため、3~5月に三陸沖の深海にいるわけだ。実際にこの時期、宮城県や岩手県の沖で大型のマツカワが大量に水揚げされていることが報告されている。

 

道内におけるマツカワの移動

水試の追跡調査で判別した、他の海域に移動する「分類Bのうちの8割」と「分類C」の移動実態は以下の通り。

●噴火湾(伊達市から西側の胆振管内)と様似・えりも方面は成魚の水揚げが少ない。
●室蘭市から新ひだか町にかけての海域と渡島東部は水揚げが多い。

 以上のことから、マツカワは成長と共に遠泳力が増し、産卵場所の三陸沖へ向かう移動を行っていることが分かる。具体的なルートとしては、晩春から晩秋にかけて日高・胆振方面を中心に来遊し、エサ取りを行った後、12月ごろから三陸方面へ南下。この際、噴火湾を経由せずに室蘭から直接、渡島東部に抜け、同沖へ進むと想定される。春にかけて同沖へ到達したマツカワは深海で産卵した後、北上を開始。6、7月ごろ胆振・日高方面に到達すると思われる。

 

大物マツカワを狙う条件とは

大物のマツカワ(分類C)の動きが分かったところで、いかにして狙うかが次のステップだ。分類C(51cm以上)の大物は個体数が少なく、情報も十分あるわけではないが、本紙が把握する情報を基に「釣れる条件」を整理すると次の通りとなる。

◆波がある日とない日では、ない日の方が釣れている。
◆海水の濁りに関しては、濃いときより薄いときの方が釣れている。
◆夜より日中の方が釣れている。
◆潮回り(干満潮)との関連については今のところ不明。

これらの情報を基に狙う条件を表わすとすれば、
「波のない穏やかな日で、海水の濁りがないか薄いときの日中を狙う」
となる。

 

大物マツカワ(分類C)の狙いどころ

では、どういった場所が「狙うべきポイント」となるのか。

分類Cのマツカワは泳ぎながらエサを取る。その際、エサの小魚が群れている場所は格好の摂餌場になるはずだ。

具体的には海藻などが繁茂する根周りや、流れ出たミネラルで植物プランクトンが大量発生するところ、つまり河口周辺ということになる。

なお、注意点として沈み根は台風の襲来や冬季の大しけにより、砂に埋もれたり露出したり年によって変化するため、昨年までの実績に固執せず、実際にサオを出す中でポイントを探っていくことが重要となる。

日高町の人気釣り場、慶能舞川河口海岸。河口周辺はベイトが多く、根も点在するなど条件が整っている

 

大物マツカワの当たりと引き

泳ぎながらエサにかぶりつくため、最初の当たりは強烈だ。何の前触れもなく突然、サオ先が大きく湾曲してサオ尻が跳ね上がり、ラインが10~20mもふける。

合わせるとガツン!という衝撃がきて、上下左右に激しく刺さり込む。漁港のような水深のある場所では、防波堤の下に潜り込もうとしてグイグイ引っ張られる。

とてもカレイとは思えないほどの爆発力と持続力がある。一度でも大物マツカワとやり取りすれば、とりこになってしまうこと請け合いだ。

 

マツカワ狙いの仕掛けとエサ

仕掛けは胴突き2本バリが扱いやすい。ハリごとエサをのみ込ませる必要があるため、ハリはあまり大きいものを使用せず、カレイバリやセイゴバリの15号程度がいい。

フロートやキンキラシートなど凝った仕掛けで狙う人がいるが、シンブルな仕掛けで十分だ。地元の人で年間何匹も大物を釣る人の仕掛けは皆シンプルである。

なおマツカワは、エサに飛びつく角度や位置によって空振りになることが多い(ヒット率は6割程度)。従って最初の当たりで合わせるのではなく、糸ふけを取った後の次にくる当たりで合わせた方がいい。

エサは短冊状に切ったカツオやサンマ、ホッキ貝、アカハラの切り身など。ちょん掛けではなく、ハリ全体に刺し通すことが重要だ。

 

マツカワ成魚の大移動の謎

大物マツカワは、ウナギやハモ(マアナゴ)などと同様、産卵場所と生活域が異なる。なぜ産卵場所である三陸沖に近い岩手県や宮城県の沿岸部を生活域にせず、数百kmも離れた北海道にやって来てエサ取りをするのか。これを解き明かすにはマツカワという魚が誕生した数百万年前に遡って考えてみる必要がある。

当時の両県の沿岸は、天敵となる大型魚が支配していて、マツカワの稚魚や若魚が生活するには極めてリスクが大きかったと想定される。それに対し、室蘭から新ひだかの胆振・日高海岸は、このようなリスクが少なかったのだろう。今でもこのエリアは、天敵となるアブラコが少なく、せいぜい海底に愚鈍なカジカがいる程度である。

同じ日高でも様似・えりも方面はアブラコが磯を支配しているため、稚魚や若魚が食べられるリスクが大きい。前述した「道内におけるマツカワの移動」の項でも触れたが、様似・えりも方面で放流され35cm以上に成長したマツカワは、大半が室蘭~新ひだかエリアへ移動している。おそらくこのエリアでは天敵のアブラコを意識せず、エサ取りに集中できるからではないかと推測される。

こう考えるとマツカワが種の保存のため、あえて産卵場所と生活の場を変える選択をしたのは間違いではなかったのではないか。その証拠に、絶滅せずに今でも生き延びている事実が、生存戦略の正しさを証明している。もう一つ加えるなら、数百kmの往復移動を可能にする手段として、わずか4年で50cmを超える魚体に成長するよう体をつくり上げたことも、生存戦略の一環だったと考えていいのではないかと思われる。