先日、大相撲初場所千秋楽をテレビで見た。嫌いじゃないがそれほど興味もない私が見るくらいだから、かなりの数の人が観戦したのではと思っていたら、瞬間最高視聴率は37・5パーセントもあった。国民的関心事となった両横綱の取り組みは、いうなれば「品行方正で品格を備えた正統派」対「悪童をそのまま大人にした稀代のヒール」という図式。それでも四角いマットのヒール好きな私としては、相撲界きって「悪童」の方に肩入れしたい気持ちではある。

そんな「悪童」が熱戦の末、栄冠を勝ち取って優勝インタビューを受けた際、同胞であろう人物の手によって、彼らの祖国であるモンゴルの国旗が背後で掲げられていたのを覚えているだろうか。地が赤と青の国旗には、左端に「ソヨンボ」と呼ばれる黄色いシンボルがあしらわれている。これは炎、太陽、月、城壁などを象徴する伝統的な意匠だが、その中に、勾玉(まがたま)を二つ合わせたような図柄が描かれている。じつはこれ、魚である。

モンゴルでは魚は神の使いとされる。魚にはまぶたがなく、ずっと目を開けているから「悪いことをしないよう用心深く祖国を見張る」という意味らしい。魚は雌雄2匹いて、もう一方は、魚が卵をたくさん産むから「子供をたくさん作って国を繁栄させなさい」という願いが込められているんだとか。国旗にあしらわれるくらいだから、あちらの国の魚はよっぽど繁栄しているとみえる。

しかし「隣の芝生は青く見える」ということもある。そう思って足元に目を転じると、やっぱり隣の芝生は青々つやつやと茂っていて、こちらのはすっかりしょげて枯れゆくばかり。アイヌ語でカムイチェプ(神の魚)の名がある人気のサケも、昨シーズンは釣りも漁も不振を極めた。成長の場である北太平洋の環境変動が大きな要因とされている。それなら、もうモンゴル式の神頼しかないと思ってはみたけれど、肝心の神様(魚)がいないんじゃあ、どうにもこうにも…。
(平田 克仁)