いつもは道内を走り回って取材をしているが、毎週月曜と火曜は会社で原稿を書き、雑用をこなすのがルーティンである。出社前にはいつものパン屋で、朝食と昼食を兼ねるパンを購入してから出社するが、そのパン屋の価格表示が変なことに最近、気が付いた。いつも店員にいわれるがままにお金を払い、ろくにお釣りも確認せずに購入していたので、今まで分からなかったようだ。おかしな価格の表示に気が付いたいきさつはこうだ。

ある火曜の午前中、デパ地下のいつものパン屋へ立ち寄り、271円のパンを1つ購入した。小銭で財布が膨らんでいたので、事前に価格を確認して1円単位まできっちりそろえ、お釣りが出ないように代金を支払った。しかし店員が想定外のセリフで意表を突く。「270円なので1円お返しします」。

私は混乱した。だって271円と書いてあるじゃないか。それがどうして270円なのだ。ちまたでよくあるキャッシュバックキャンペーンを、このパン屋でもやっているのか? パン屋でキャッシュバックをするなんてずいぶん斬新な発想だ。おそらく業界初だろう。戻ってくるお金はいささかセコイといわざるを得ないが、もともとの商品であるパンの値段が安いのだから仕方がないというものか…。

だが真相はキャッシュバックキャンペーンではなかった。店員によれば、価格は1円未満を切り上げて表示する、と決められている(決めている?)のだという。しかし客から料金をもらうときは、1円未満は切り捨てるのだとか。だから価格表示は271円なのに、実際の価格は270円ということになるらしい。すると、この店にある大半のパンの実際の価格は、表示価格から1円を引いたもの、ということになる。なぜわざわざそんなしち面倒臭い、消費者を惑わすようなことになっているのかは分からないが、そう決まっているのなら仕方がない。

トレイから余分な1円玉をつまんで財布へ戻し、本当は270円なのに、建前上は271円で、やっぱり270円だったパンを、釈然としない気持ちで受け取った。「実際の価格が1円切り上げ」だったら大問題だが、たった1円ではあるが得した気分にはなれるから、まあ、良しとするべきか。
(平田 克仁)