海外では古くから行われているサーモンフライフィッシング。前後左右にある程度余裕のある空間が必要なこの釣りが入り込む余地が少ない道内のサケ釣りシーンにおいても、フライフィッシングでサケに挑むアングラーがいる。おいしい食材であるのはもちろん、他にはないトルクフルな引き味が魅力のサケをフライで釣るノウハウを解説する。
(工藤 宏明)
北海道を代表する秋の味覚
北海道を代表する秋の味覚といえば、サケやサンマを思い浮かべる道産子は多いでしょう。どちらも旬の季節には脂がのり、特にサケは捨てるところがないと言われるほどおいしい魚です。70~80cmもある巨体から繰り出される力強い引き味に魅了される釣り人は多く、道内の有名ポイントは毎年多くの釣り人でにぎわっています。
道内沿岸に回帰したサケ(シロザケ)は、基本的にエサを食べないと言われています。ですが、筆者は弱っているチカなどを食べているサケの姿を何度か目撃しています。岸寄りしたサケが積極的にエサを食べないことは、ウキルアーや投げ釣りのフロート仕掛けなど、食性よりも威嚇(いかく)行動の誘発に重点を置いたリグを見れば、容易に理解できるでしょう。
タックルはどんなものがいいのか
サケ専用に開発された国産ロッドは多くはありません。逆に古くからサーモンフィッシングが盛んな英国や北欧などは、サケを釣るための高番手ロッドが数多くラインアップされています。国内と海外のサーモンフィッシングで大きく異なるのはメインとなるフィールドです。海外は河川が主な舞台ですが、忠類川などごく一部を除き内水面でのサケ釣りが禁止されているわが国では、必然的に海で釣る機会が大半を占めます。ですからタックルは、そういった事情などを考慮して選ぶ必要があるのです。
ROD
国内と海外ではフィールドの環境、歴史的背景が違うため、海外製ロッドを国内で使用すると、釣り場の状況にフィットしないケースが出てきます。一方で、アトランティックサーモンやスティールヘッドなど引きの強い魚を想定して作られているので、シロザケを釣るには十分なパワーを備えている製品が多いのも事実です。
国内のサケ釣りに関していえば、長さは9~15フィート前後、#9前後が扱いやすいでしょう。バックスペースが確保できる釣り場では、シングルハンドでも楽しめるますが、そういった条件に恵まれた釣り場は限定的です。好条件であっても混雑するケースが大半なので、釣り場環境の変化に対応しやすいスイッチロッド(セミダブルハンドロッド)が最適でしょう。筆者が最初の1本を選ぶなら、ずばり12フィート#10のスイッチロッドです。
REEL
シロザケはサイズの割に特段引きが強い魚ではありません。ですがその大きさゆえにトルクがあり、状況によってはキャッチするまで相応の時間がかかります。そして時間がかかればかかるほど、他の釣り人とオマツリするなどトラブルの可能性も高くなるので、サケを掛けた後は無駄に走られないよう、ドラグをしっかり締める必要があります。
そのためにはドラグのブレーキ機能がしっかりしているリールを選びたいところです。フライリールのブレーキシステムには主にラチェット式とディスク式の2種類がありますが、よりブレーキが強力なディスク式のリールがお薦めです。バッキングラインは100~150m巻けるもの。海で使うので防錆処理されているものが理想です。堅牢性も重要で、剛性の低いリールを使用するとサケの強い引きでメインシャフトが歪んでしまう恐れもあるので注意しましょう。
FLYLINE
当日の風や波の状態で、水に浮くフローティングか、ゆっくり沈むインターミディエートを使い分けます。サケが海面に背びれを出して泳いでいたり、穏やかで波がなければ前者を、サケが少し沈んでいたり、やや波があるなら後者がいいでしょう。
サケ用のフライ、サーモンフライは大抵大型です。キャスティングではそういった大型のフライを遠投するために、重いフライラインを使用します。近年はオーバーヘッドキャストに加えスペイキャスト、アンダーハンドキャストなどいくつかのキャスティング方法があり、それぞれに専用ラインが用意されています。
ロッドの項でも説明しましたが、元々海外のサーモンフライフィッシングはバックスペースに余裕のない河川で、大きく重いフライを扱えるよう、スペイキャストなどが発展してきました。それに伴い専用のフライラインが開発され、国内でもそのキャスティングの楽しさや、肉体的な負担の少なさから愛好者が増えました。
しかしスペイ系のキャストにはウイークポイントもあります。伝統的なスペイキャストやシューティングスペイキャストは、大きなバックスペースが必要ない代わりに、ある程度サイドのスペースが必要になります。そのため混雑する釣り場でのキャストは困難です。
スペイ系のキャストで釣る時は、人がいない場所を選ぶ必要があります。どんな釣りにも言えることですが、混雑する釣り場ではその場その場に合わせてスタイルを変える、「郷に入れば郷に従う」の精神が重要なのです。
FLY
「サーモンフライ」をネットで検索すると、クラシカルで綺麗なパターンが多くヒットします。でも実際には、赤くて良く動くフライであればなんでも釣れます。筆者は、サケ釣りのエサの定番、地方によって「赤タン」とも呼ばれる紅イカの短冊をイメージしてフライをタイイングします。やはりこの「赤タン」は歴史的に長く使用されているだけあって、サケに対し一種の「魔力」を発揮するようです。
色は赤を基本に、太陽の光量や海水の濁り具合に合わせて紫、黒なども使います。もっと釣れるフライパターンもあると思いますが、この釣りはいろいろ試せるほどチャンスが多くないので、筆者は実績が高くシンプルでタイイングが楽なパターンを愛用しています。フックは太軸の1/0がメインで、全長は8~10cmほど。赤いゾンカーテープを巻き留めるだけのシンプルなパターンです。経験上、大きめのサイズに反応がいい気がします。
ゾンカーなどの水を含みやすいフライは乾きにくく、釣行後はすぐに塩抜きしないとあっという間にさびてしまいます。さびを防ぐには、タイイング前のフックにシリコンスプレーでコーティングを施し、釣行後は真水を入れた容器にフライを入れて持ち帰ります。帰宅後は軽く水洗いして乾燥させます。
実践編
サケを釣るために最も重要なのはポイントです。河口付近など1級ポイントは混み合うのでフライフィッシングで入り込む余地はほぼありません。遡上直前のサケは河口付近に集結しますが、淡水の浸透圧に適応できるようになるまで、河口付近で魚体を川水に慣らします。母川ではない川の流れ込みに姿を見せることもあるので、小川の流れ込みなど気になる場所を見つけたら、まずはキャストしてみることが大切です。
釣り方は至ってシンプル。フライを投げ、ラインを手繰ってゆっくりリトリーブするだけです。よほど悪条件でもない限り、常時15~20mキャストできればチャンスがあります。キャスト後、フライが水になじんだら、ゆっくりリトリーブします。ゆっくり引くのはフライの得意分野なので、難しいテクニックは必要ありません。ただし手繰り寄せて足元に垂らしたラインが波にもまれると、ライントラブルが発生しやすいので、ラインバスケットは必須です。
フライは手前ぎりぎりまでリトリーブしましょう。波打ち際を回遊するサケがヒットするかもしれません。波打ち際に立ち込んで釣る場合が多いので、ライフジャケットは着用するようにして下さい。
終わりに
海外では、サケは古くからフライフィッシングのターゲットになっている魚です。ただ前述したように、周囲のスペースに余裕が必要なフライ独特のキャスティング方法や、ファイトが長引いて他の釣り人とトラブルになる確率が高いなどの理由で、フライで狙えるフィールドは少ないと言わざるを得ません。
道東に関していえば、サケのフライフィッシングはオホーツク海沿岸や根室方面の一部で行われているだけです。それでも細々とフライフィッシングが行われている釣り場も確実にあります。状況次第でフライは他のどんな釣り方よりも釣れることもあり、ぜひサケを釣る喜びを感じていただければと願ってやみません。