地球温暖化の影響か近年、北海道の夏は猛暑が続き、今年も熱い夏がやって来るのはほぼ間違いない。そんな事情もあり、渓流のルアーフィッシングは渇水や水温上昇によりシビアな状況が続くと予想される。しかしそんな状況であっても、トラウトの捕食対象を理解し、状況に応じて適切な攻略法を実践すれば、良型に出合える可能性は大きく広がる。
(白土 高利)

 

夏の渓流を楽しむメソッド

夏場は気温上昇と共に水温が上がり、さまざまなジャンルの釣りが「夏枯れ」と呼ばれる時季に突入、魚が釣りづらくなる。ソルトウオーターも例外ではなく、海水温の上昇で魚が深場へ移動するため、1匹を釣る難易度が上がる。私が好むフレッシュウオーターは河川の水量が減って渇水気味になり、魚の警戒心が高まる傾向にある。

渓流魚のイワナ、ヤマメ、ニジマスなどのトラウト類はカワゲラやトビケラなどのアクアティック・インセクト(水生昆虫)、セミやカメムシなどのテレストリアル(陸生昆虫)、小魚などを捕食している。川辺ではよく小さな虫が飛んでいるが、そのほとんどがアクアティック・インセクトである。川底で卵から幼虫になり、ある時期をへて川底から浮上、水面などで羽化し羽を広げて空へと羽ばたいていく。

トラウトたちにとっては、幼虫から成虫に変態するまで全てのステージが捕食対象であり、ありとあらゆる機会を狙って捕食活動を行っている。河畔林や石、岩などに張り付いていた昆虫が風などで吹き飛ばされ、水面に落ちるとそれらの昆虫を目ざとく見つけ、捕食する光景を目にする機会は少なくない。そのため夏場のトラウトは水面を強く意識しており、積極的にテレストリアルを捕食している。

トラウトの主なターゲットになっているテレストリアルはバッタ、セミ、ハチ、カメムシなどである。真夏のうだるような暑さの中でも渓流や源流では涼を感じることができ、特にテレストリアルのトップウオータープラグを使うと、捕食の瞬間に派手な水しぶきが上がり、迫力あるルアーフィッシングが楽しめる。

トラウトのメインベイトの1つ、水生昆虫のカゲロウの成虫
カゲロウのニンフ(幼虫)もトラウトが好んで捕食するベイトだ
テレストリアルに分類されるセミ。ボリュームあるフォルムはデカニジの大好物

 

シチュエーション別攻略法

渓流と一言で言っても、そのシチュエーションは千差万別。ここでは代表的なシチュエーションを取り上げ、それぞれについて攻略法を解説する。

ボサ下

水面すれすれに張り出した雑草や樹木で覆われている岸近くの流れを指す。一見、水深が浅そうにに見える場所も多いが、意外に深く掘れており、トラウトが隠れていることも少なくない。川岸から雑草などがせり出しているボサ下は、トラウトにとって天敵の鳥などから身を隠す上で絶好の隠れ家になっている。ボサがある所は流れが少し緩やかなことも多く、トラウトは体力を温存しながらボサ下に定位し、上流から流れてくるテレストリアルなどのエサを待つ。大型のニジマスが隠れるにもうってつけのポイント。

川岸に雑草や樹木がせり出したボサ下はトラウトの絶好の隠れ家になる

障害物周り

ストラクチャーとは、魚が着きやすい構造物、障害物のこと。消波ブロックや橋脚など人工的に作られた障害物は単に「ストラクチャー」と呼ぶが、倒木や岩など天然の障害物は「ナチュラルストラクチャー」と呼ぶ。障害物周辺はトラウトが姿を隠せる場所が多いので、魚がたまりやすい。ストラクチャーとなる消波ブロックや護岸の際周辺などは川の流れがぶつかりやすく、底が深く掘れていることが多い。ナチュラルストラクチャーの倒木周辺などは、水深が浅くても魚が隠れる程度のスペースはほぼ必ずあるので、見逃してはならないポイントである。人口、天然に関わらず、こういったストラクチャーには大物が潜んでいる可能性が高いので、積極的に探っていきたい。

川岸に埋設された消波ブロック。際は水深が深く大物が潜む可能性が高い
大岩の際は川底が掘れていることが多くトラウトが隠れている
川に水没した倒木などもトラウトが居着く有力候補

バブルライン

流速の速い流芯に白泡が立ち、泡の筋が流れていることがあるが、これをバブルラインと呼ぶ。水面に落ちたテレストリアルをはじめ流下物が集まりやすく、夏場は特にライズが起きやすい。もしもこういった場所でライズを見つけたら、水面に浮かぶトップウォータープラグで攻めると効果的だ。

落ち込みなどで発生した白泡が筋状に流れるバブルライン。流下物が通りやすくフィーディングレーンと一致することが多い

 

ルアーでの狙い方や注意点について

渓流でのルアーの狙い方はさまざまで、釣り人の好みによっても変わってくる。夏場は河川が渇水気味で水位が急激に下がることもあるが、長期間にわたって雨が降らない日が続くと、トラウトは上流や下流に移動しづらくなり、同じポイントに長く定位する傾向が強くなる。

1級ポイントといわれるポイントであれば、一日にたくさんのアングラーが何度もルアーを投入するため、フィッシングプレッシャーは四六時中MAXといっていいだろう。そんな一筋縄ではいかない大型魚は、マッチ・ザ・ベイトで攻略すると効果的だ。

初夏から初秋にかけて最も捕食されているメインベイトはドジョウである。ドジョウは栄養価が高く、過酷な冬を乗り切るための貴重なタンパク源になっている。河川の渇水状態が続くと水中の酸素濃度が低下し、川底の泥底などに潜むドジョウは酸欠状態でもがき苦しむが、大型のトラウトはそんな状態のドジョウをターゲットとして捕食行動にでる。そのためドジョウをモチーフとしたルアーは、夏場の最強戦略の1つとなるだろう。

ただし渓流や源流で最も注意してもらいたい点が1つある。ヒグマだ。ヒグマは川沿いや川通しに移動することが多く、釣りに夢中になっているとヒグマの存在に気づくのが遅れ、取り返しのつかないことになりかねない。人間の存在を積極的に知らせることで、ヒグマの方が先に人間を察知し逃げ出すことが多い。私もヒグマに追われたことがあり、命からがら逃げ出して助かった経験がある。ヒグマに決して出遭わないよう、対策は抜かりのないようお願いしたい。

渓流釣りで注意が必要なヒグマ。クマ鈴や笛、クマ撃退スプレーは必須アイテムだ

 

最盛期の攻略法とは

夏から秋にかけての攻略は、フローティングミノーとスローシンキングミノーが効果的だ。トラウトがテレストリアルを意識している状況では、フローティングルアーがお薦めといえる。ドジョウを捕食ターゲットとしている場面では、細身のスローシンキングミノーやジョイント系シンキングミノーが活躍する。

テレストリアル系のミノーを使うときの注意点としては、トラウトが反応してヒットシーンを目撃しても、決して慌てないこと。トップの釣りはそもそも難易度が高く、トップウォータープラグで狙ってもフィーディングレーン(魚が捕食している流れの筋)から少しでもずれると反応が来ない、シビアな釣りである。

しかし、「バシャ!」と水面を割って食い付いたときの感動は何物にも代え難い。その際に注意したいのがフッキングだ。魚が食い付いた瞬間に素早く合わせるとばれる確率が高くなるので、ワンテンポ遅らせて合わせるくらいがちょうどいい。

ドジョウをモチーフにしたミノーを使うときは、あまり深くないボサ下や、倒木など障害物の周辺でスローテンポで誘いをかけると、ターンさせた瞬間にヒットすることが多い。トラウトは逃げるものに襲いかかる習性がある。トラウトの目の前で急にルアーがターンすると、「逃げられる」と感じ、思わず食い付いてしまうのだと推測される。