この間、よんどころのない事情で短期間にレンタカーを4台乗り継いだことがあった。そのうちの1台で出張したときのことだ。

日没後、宿にチェックインした後で「もしかしたら夜釣りをしている人がいるかもしれない」と思いつき急きょ、港へ向かった。結果からいえば、釣り人はいたが魚は釣れておらず取材は失敗。まあ、こんなことは日常茶飯事なので問題ないが、本当の問題はその後に起きた。

宿に戻るため車に乗り込み、キーを差し込んでグイッと回すと、一瞬セルモーターが唸ったと思ったら、ウンともスンともいわなくなってしまったのだ。夜の港で故障するなんてまったくツイてない。とりあえずヒューズが切れていないか確かめるため、助手席の足元に設置されたヒューズボックスを開けてみる。そしてヒューズを外すためのツール、「ヒューズ外し」を探したのだが、これがどこを探してもが見当たらないのだ。

爪も入らないような狭い隙間にびっしり並ぶヒューズを引き抜くためには、「ヒューズ外し」が必須で、大抵ヒューズボックスの中にあるはずなのだが…。しかしすぐに意外な事実が判明する。夜になにやらごそごそやっている私を見て声をかけてくれた釣り人によれば、最近の車には「ヒューズ外し」が付いていないというのだ。

い、一体いつの間にそんなことに!? 確かにヒューズボックスを開けるのは25年ぶりくらいだが、「ヒューズ外し」がないヒューズボックスなど、ハリの付いていない釣り糸、闘魂のないアントニオ猪木、いわゆる「役立たず」ではないか。いや、最近の車は電子機器がぎっしりでデリケートだから、素人は手を出すなと言うことか。原価10円もしなさそうな「ヒューズ外し」を、まさかコストダウンのためにカットした可能性は低そうだ。

結局、ヒューズの断線を確認することはできず、レンタカー会社に連絡して車を交換。何とか翌朝からすぐに仕事ができたが、原因はヒューズではない部分の断線だった。それにしても「ヒューズ外し」だけじゃなく、車の中身は昔に比べてかなり変わっている。ブレーキペダルもシフトレバーも、今や電気的な信号を送るエレクトリックなスイッチに過ぎず、エンジンとモーターの力で走るハイブリッドカーは、制動エネルギーを電気としてためこみ、モーターを動かす力に充てている。前方の車を、一定間隔を空けながら追従する車もあるし、危険を察知して自動でブレーキをかけるのはもはや当たり前の装備になりつつある。昔の車が機械油の臭いがするメカニカルな乗り物だとすれば、現代の車は無味無臭で正確無比、エレクトリックな精密機械といえそうだ。

実は釣りの世界も同じで、とりわけフライフィッシングは次々と新しいものが出てくるので理解するのが大変だ。スペイキャストが流行りだしたと思ったら、すぐにシューティングスペイが現れ、やれスカジットキャストだ、アンダーハンドキャストだ、いやスカンジナビアンスタイルだと、もう次から次へと聞き慣れぬ単語が出てきて、物覚えの悪い私はもう頭のヒューズが切れてしまいそうである。せめて英語じゃなく、アンダーハンドキャストを「西洋毛ばり釣り下手投げ」みたいな感じのネーミングにしてもらえれば…いや、かえって分かりにくいか。
(平田 克仁)