釣りの楽園で今、クローズアップされている問題とは

国内で最も北に位置する北海道は、冷たい水を好む魚たちが今も昔も多くの釣り人を楽しませてくれる釣りの楽園です。そんな北のパラダイスで人気のある魚といえば、カレイやホッケ、コマイ、チカなどが代表的ですが、その筆頭といえばなんといってもサケではないでしょうか。

 

釣り人を熱狂の渦に巻き込むサケ

サケは道内一円で釣れるため全道的に人気が高く、引きの強さと豪快なファイトは他に代え難いものがあります。

しかも非常に美味で、雌は「赤い宝石」とも称されるイクラを抱えるなど、釣り人が思い描くほぼすべての欲求を満たしてくれるターゲットとなっています。

それゆえ釣り人の熱狂も尋常ではありません。釣り座確保のために「夜討ち朝駆け」は当たり前で、前日夜に現地入りして車中泊するケースは珍しくありません。

定年を迎えて時間に余裕のある人は、釣り場に連泊して数日間にわたってサケを釣るケースも見受けられます。これほど多くの釣り人の情熱をかきたてる魚は、世界的に見てもそう多くはないでしょう。

毎年どさんこ釣り師を熱狂の渦に巻き込む「魔性の魚」、それがサケという魚の正体なのです。

 

釣り人の立場は「居候」

それだけ多くの釣り人がサケに夢中になるがゆえ、各地でさまざまなトラブルも起きています。その最たるものが「場所取り」です。

海岸や港の一部をロープで囲ったり、私物を置いて場所を占有する行為は、サケ釣りではかなり以前から知られています。道と警察が連携して海岸の違法な工作物を撤去した事例もありますが、ほとぼりが冷めると再び以前の状態に戻るいたちごっこが続いています。

こういったマナー違反に対して以前、本紙が行ったアンケートでは、「人としてのマナーを学んでから釣りしてください」(30代男性)、「警察の介入権を認めてどんどん取り締まる」(50代男性)、「場所を取りたいならその場にいればいいい」(40代男性)、「サケ釣りをライセンス制に」(30代男性)、「釣り禁止場所が増えるから本当にやめてほしい」(40代男性)、といった辛辣(しんらつ)(しんらつ)かつ切実な声が届きました。

サケ釣りは海岸だけでなく、港でも行われます。港の釣りに関して言えば、われわれ釣り人は漁業生産の場を間借りさせてもらっているいわば居候(いそうろう)です。

漁業の妨げになるような行為はもってのほかで、「家主」である漁業者や漁港管理者に追い出されても文句は言えません。

それにもかかわらず、他人の迷惑を考えずに車を止め、漁業従事者の往来に支障が出ている場所も多いのが現実です。

 

もはや「性善説」は限界か

もう1つ大事な問題があります。「ごみ問題」です。釣りに限らずどんなイベントや行事でも、人が集まるにつれて多くなるのがごみのポイ捨てです。

釣り場で出るごみといえば、仕掛けや釣り具のパッケージ類のほか、飲食物の包装や空き缶、レジ袋などがあります。紙皿やプラスチックのフォーク、アルミ製の簡易鍋など、バーベキューの跡と思われるごみがそのまま釣り場に残されていることもあります。釣りとはまったく関係のない「生活ごみ」が捨てられていることも少なくありません。

文明社会に付き物のこういったごみ問題は本来、個人のモラルで解決されるべき課題ですが、もはや性善説に頼っていては解決しないということも、ベテランの釣り人ほど強く感じているのではないでしょうか。

 

釣り人に求められる「ATARIMAE」

2023年にWBCを制した日本代表のベンチ内がごみ1つなく、非常にきれいだったことが海外記者のSNSなどで取り上げられました。

昨年のサッカーW杯でも、日本の観客が試合後に観客席の清掃を自主的に行う姿が報道され、世界中から賞賛されています。

ごみを自主的に拾った彼らは海外メディアの取材に対してこう答えています。「使う前よりも使った後をきれいにする。これは日本では当たり前なのです」。

多くの日本人サポーターから出た「当たり前」という言葉は「ATARIMAE」と形を変え、素晴らしい文化だと世界から賞賛されました。

今、サケ釣りに親しむ釣り人に対して、少なくともごみ問題に関して「ATARIMAE」の精神が求められているのは確かです。