魚は他の動物と同様、雄雌の性別がある。例えばサケなら、「イクラが目当て」という人は非常に多く、雌だけを狙って釣ることができれば非常に効率的だ。今回はこの性別に着目し、雄または雌を意図的に釣ることができるのかどうか考察してみたい。
(本紙編集部)

はじめに

見た目で雄と雌を区別できる魚の代表例はサケ・マス類である。外洋を回遊してエサ取りをしている2~3年間は区別しにくいが、産卵期になると雄は吻(ふん。口あるいは周辺が突出している部位)が前方へ伸び、上あごの先端が曲がって歯が鋭くなるため、雌との違いが明瞭になる。

日本にはサケ・マス類以外にも、見た目で雄と雌を判別できる魚は結構いるが、私たちの感心が高いのは釣りのターゲットであるカレイ類やホッケ、アブラコ、ソイ類など北の海にすむ魚たちだろう。そもそもこれらの魚たちは、見た目で雄と雌を区別することはできるのだろうか。

①産卵期の魚体の色で区別する

産卵期の見た目はどうか。代表例はアブラコだ。成魚の雄は、産卵期の秋になると体全体に黄色みが強くなる。黄色っぽいアブラコが釣れたら「雄」である。色の違いで雄雌を区別できるのは分かりやすいが、色で区別できるのは残念ながらアブラコしかいない。川魚であるアカハラ(標準和名ウグイ)は、産卵期になると腹部にオレンジ色の婚姻色が出ることで知られるが、雄雌共にオレンジ色が出るため、色では性別を区別できない。

婚姻色が出た雄のアブラコ
産卵期に赤い筋が表れるウグイ

②産卵期の腹部で区別する

色以外の見た目はどうか。産卵期になると、腹部に卵や精子を抱えるようになるため、ホッケ、アブラコ、ソイ類などいわゆる丸物は、高齢になればなるほど太って重量感たっぷりとなる。

だいたいどの魚種も雄雌共に4歳になると成魚になるが、4、5歳より7、8歳、7、8歳より10歳越えの方が産む卵の数が多く、見た目の違いが大きくなる。体長でいうと30cmより40cmが、40cmよりも50cmの方が太って重量感に秀でるという訳だ。

一般に雄より雌の方が腹部が盛り上がっていることが多いため、腹部の大きさで雄雌の判断が付きそうな気がするが、人間の目というのは意外と当てにならないもので、腹部が出ているので雌と思って腹を裂いてみると雄だったりする。

従って雄雌両方の腹の出っ張り具合と中身を突き合わせ、その違いを自分の目で確認しないと見た目で区別するのは難しいと思われる。

カレイ類は丸物の魚に比べて腹部があまり出ないが、無眼側の白い部分に卵がくっきりと見えることが多いので、そこで区別することができる。

「釣り分け」ができる前提条件とは何か?

以上のように、北の海にすむ魚たちは見た目では判別しづらいが、果たしてこのような状況で雄と雌を区別して釣ることができるのか。「釣り分け」ができる前提条件として考えられるのは主に次の3つだ。

①雄雌が泳ぐ水深が違う
②群れの先頭を泳ぐ性別が決まっている
③根に棲む魚の居場所が性別によって違う

以下、それぞれの条件を考察してみたい。

①雄と雌のいる水深が異なる

雄と雌の泳ぐ水深が違う魚はいるのだろうか。水深が違うということは食べるエサに違いがあるということと同義である。

仮に雌が上層、雄が底層を泳ぐ場合、雌はプランクトン類やイワシ、サバなどの小魚を多く食べ、雄は貝類や根魚の稚魚などを多く食べるということになる。これは同じ種でありながら雄と雌で食性が違うことを意味する。

結論から言うと、雄と雌で違うエサを食べているという話は聞いたことがない。海の中のことなのでイメージしにくいが、これを陸上動物に置き換えると分かりやすい。同じ種で、雄と雌で違うものを食べている陸上動物は存在しない。ライオンでも馬でもパンダでも、食べるものは皆同じである。

つまり動物という生き物は、海の中だろうが陸の上だろうが、同じ種であれば雄と雌で食性に違いはない、ということになる。

魚に話を戻すと、上層にエサが多ければ雄雌共に上層に群がり、底層にエサが多ければ底層でエサ取りをする。つまりタナの違いで「釣り分け」は困難ということになる。

②群れの先頭を泳ぐ性別が決まっている

群れの先頭を泳ぐ性別が決まっている魚はいるのだろうか。サケの集団は、雄が先頭になることが多い。従って最初の群れが岸寄りしたとき、最初に釣れるのは雄である確率が高いと言われる。

他の魚はどうか。ホッケを例に取るとサケ同様、雄が先頭を泳いでいるとしてもおかしくない。というのも、ホッケの雄は縄張り意識が強く、他者に対して攻撃的だからだ。

産卵後に卵を守るのは雄の役目だが、その際、他の魚が近付いて来ると猛然と襲い掛かって蹴散らそうとする。雄の荒々しい性格を考えると、他者に対する威嚇、エサへの渇望や執着心などから、群れの先頭に立っている可能性は高いように思われる。

従ってホッケの場合、群れで最初に釣れるのは雄である確率は高い。ただし、これが当てはまるのは「春ボッケ」だけ、ということを忘れてはならない。

③根魚の居場所が性別によって異なる

根魚の居場所が雄と雌によって異なることはあるのだろうか。例えば複数の根が散在している場合、ある根に雄、別の根に雌という「すみ分け」がなされていることはあるのか。

この「すみ分け」が成立するには、雄は雄、雌は雌で群がる方がいろいろな意味で効率がいい場合に限る。「効率がいい」とは、エサの確保、高波への防御、外敵からの攻撃などさまざまな問題に対して、最もエネルギーを使わずにすめる「根」を選択していることをいう。

雄が雌のために、エサが多く、高波に耐えられる大きな根を譲ることなどあり得ないし、その逆もない。自然な形で雄雌共に「最適解」となる根にすみ着くはずである。

それは実際の釣りにおいても実証されている。アブラコにせよ、ソイにせよ、複数匹を釣り上げた場合、そのすべてが雄、あるいは雌ということはなく、どちらか一方に偏りがあったにしても、異性が必ず交じる。従って、根魚において雄と雌を区別して釣るのは困難といえる。

釣れる性別が決まっている魚がいる

雄と雌の釣り分けではなく、最初から釣れる性別が決まっているケースがある。ホッケとアブラコ、クロガシラ、マコガレイの4種は、卵がふ化するまで、成魚に限り雄が卵を守る。その期間は多少の差はあるが、だいたい1か月くらいだ。

産卵時季は、道央や道南の日本海では、アブラコとホッケが10~11月、クロガシラとマコガレイが2~3月。ゆえにこの4種の雄は産卵が始まる時季から卵がふ化するまでの間、産卵場にとどまりエサを取らない。当然この期間、雄が釣れることはなく、釣れるのは雌だけである。

ホッケの秋の岸寄り時季は11月上〜中旬ころ。この頃釣れるのはほとんどが雌だ(ただし成魚に限定)。産卵は数回に分けて行われるので、雌は産卵場とエサ取り場を行き来する。産卵が終わるのが11月末ころ。12月に入ると、産卵後の雌が荒食いを始める。12月に釣れるのは雌のみである。雄は12月いっぱいは卵を守り、エサを口にしない。雄がエサ取りを開始するのは翌年の1月からだ。

クロガシラとマコガレイは、産卵を終え釣れ始めるのが主に3月から(ただし成魚に限る)。ヒットするのは全て雌である。雄は4月いっぱい産卵場で卵を守るため、釣れることはない。雄が釣れ始めるのは5月から。この時季に数釣りができる。雄の個体数が雌の約5倍あるからだ。

ソイ類にも触れておこう。クロゾイやマゾイ、シマゾイなどのソイ類は、卵を雌の体内でふ化させる卵胎生のため、そもそも海中で産卵しない。このため産卵前後で雄も雌も釣れるが、なぜかその割合は雄より雌の方が圧倒的に多い。卵の段階で雄雌の個体数に差があるのか、雌の生存率が高いのか、詳細は不明だが、成魚はかなりの確率で雌が釣れる。卵胎生のソイ類にとって、種を維持するためには雌の個体数が雄より多くなければならないという法則が働いているのかもしれない。

終わりに

かつてロシアでは漁業効率を高めるため、さまざまな色を使って特定の魚をおびき寄せる研究をしていたが、その試みはついに日の目を見ることはなかった。特定の色に集まる特定の魚を見つけることができなかったのである。色で寄せることすら難しいのだから、現在の釣法で、同じ種の雄と雌を釣り分けるなど、途方もなく困難に思える。今のところ全く異なるアプローチから答えを導き出すしか、他に方法はないのではないかと思う。