釣りでよく使われる「まづめ」という言葉。「まづめを狙わないと釣れない」、「まづめが一番釣れる」など、肯定的に使われることが多いが、なぜ釣れるのか、理由を明快に答えられる人はほぼ皆無である。今回はまづめに何が起こっているのか、その真相を探ってみたい。
(本紙取材班)

 

「まづめ」とはなにか

「まづめ}とはどういう状態を指す言葉なのか。ネットで検索すると『日の出、日没の前後で、それぞれ朝まづめ、夕まづめという』と書かれているものが多い。太陽が水平線に近づき、明るさの間を詰める意味から漢字では〝間詰め〟と書くが、平仮名で〝まづめ〟と書くのが一般的である。時間帯については、『日の出、日の入りの前後1時間程度』が多いが、『2時間程度』と書いているものもあり、捉え方が釣り人によってまちまちである。しかし、「まづめ」が薄明るい(薄暗い)時間帯を指す言葉であるのは間違いない。

 

ネットでよく見る「まづめ」が釣れる理由

ネットを見ると、まづめは魚がよく釣れる時間帯として紹介されている。その理由が書かれているものがあり、抜粋すると以下のようになる。朝まづめは、植物プランクトンが光合成のために浮上するため、それをエサとする小魚が捕食活動を開始する。夕まづめは、夜行性の動物プランクトンが活動を始めるので、朝と同様のことが起こる。朝夕をきっかけとするプランクトンの活動がトリガーとなり、食物連鎖を活発にしている。

これは、

まづめがよく釣れる = エサ取りを開始する時間 = プランクトンの増殖と活性化が原因

という論旨である。

 

実例で見る〝まづめ〟の真実

だが果たして本当にそうなのか。実際のケースで、まづめに発生する現象を以下に列記してみた。

❶明るい(暗い)時間帯からサオを出したところいきなり釣れ始め、まづめも同様に釣れた。
❷昼(夜)のうちは当たりがなかったが、まづめに当たりが出始め、以後魚がよく釣れた。
❸明るい時間帯も暗い時間帯も共に当たりがなく、唯一釣れたのがまづめだった。釣れた魚の数は少なく3~5匹止まりだった。
❹夜も昼も当たりがなくまづめに期待したが、2、3回当たりはあったものの釣れなかった。

前記4つは、多くの釣り人が現場で実際に経験している事例である。❶❷のように大釣りできることもあれば、❸のように貧果に終わることもあるし、❹のようにボウズのこともある。必ずしもまづめが釣れているわけではない。特に❸❹はベストシーズンでも日常的に発生する事象だ。

「プランクトンの動きが魚の行動を活発にするトリガーの役目になっている」というネットの見解に対し、当てはまりそうなものは、この中では❷しかない。❶はまづめ前から釣れているし、❸は一見トリガーに見えるが、その後、動きは沈静化しておりトリガーになっていない。❹にいたっては、もはやエサ取りとは言えないような動きである。ネットでは、釣れない理由を潮回りなど他の要因に転嫁しているものが多いが、論点をずらしているだけで、まづめの問題に正面から向き合っていない。このことがなぞを生む大きな要因となっている

 

まづめが生物に与える影響について

ネットの見解の一番の問題は、太陽光の強弱そのものにまったく焦点を当てていない点にある。誰が見ても、まづめは一日のうちで最も太陽の光が弱い時間帯である。特に前述の❷❸❹を見ると、弱い光が魚に何かしら影響を与えているのは疑う余地がない。大事なのは、上記4つの実体験のすべてを満たすことができる答えを導き出すことである。それができれば、まづめの真相に迫ることができるはずだ。一般に「日の出、日の入り」は、生物に次のような影響を与えている。

【A】一日の時間を光量で把握している。昼と夜の境目である「日の出、日の入り」で生活リズムを作っている。

【B】太陽光には人間の目に見えない赤外線や紫外線などが混じる。紫外線は皮膚の炎症やDNA損傷などの害をもたらす一方、生命維持に必須のビタミンDを生成する。日差しの強い日中は紫外線量が多く長時間浴びると危険だが、日差しが弱いまづめは紫外線量が少なく、DNA損傷などのリスクを抑えながらビタミンDの生成に寄与する。

 

【A】を考察

魚の摂餌は遺伝子が指令

昼行性のマガレイなどは朝まづめを境に、夜行性のソイ類などは夕まづめを境にエサ取りを開始する。弱い太陽光が差す時間帯に合わせて、それを起点に活動を開始するわけだ。問題はそういう摂餌行動を促しているものは何か、という点である。

魚が摂餌行動に出るのは食欲を促すホルモンが分泌されたときである。ホルモンの分泌(生成)を指示しているのは、それに関連する遺伝子だ。ホルモンやビタミンなどのタンパク質は、さまざまな遺伝子の指令によって生成される。遺伝子はタンパク質を作る設計図なのだ。この遺伝子が作用することによって、魚はエサ取りを開始する。

ここで重要なのは、魚は人間と異なり、脳に食欲を制御する機能が備わっておらず、一度このホルモンが分泌されると、胃がパンパンになるまでエサを取り続けるという点にある。満腹になると、魚はエサ取りを止める。そしてエサ場を離れて身を隠す。問題は、次に遺伝子から指令が出るタイミングだ。

摂餌行動を促すタイミングはいつか?

摂餌行動を促す指令が出るタイミングは、おそらく胃の中が空っぽになったときである。なぜなら、腹3分とか腹5分のように余力のある状態では、エネルギーとなる糖(※エサを食べると最終的に糖に変わる)がまだ血液中に循環しており、食欲を促すホルモンが発生しにくいと考えられるからだ。

胃が空っぽになるのは、魚の活動範囲や活動時間(=代謝効率の変動)、胃の大きさなどによって異なるが、エサを食べた日からおおよそ2~10日程度かかると思われる。つまり、魚は一度エサを取ると、次にエサ取りをするまである程度の時間を置かなければならない。これは実際の釣りでも数多くの事例がある。アブラコやソイが多数生息している根でサオを出したとき、爆釣することもあれば貧果に終わることもある。いかに釣り名人でも、魚が満腹なときにサオを出せば釣れないのだ。

ここで最大の疑問は、食欲を促すホルモンを生成する遺伝子(以下「食欲ホルモン生成遺伝子」と呼ぶ)が、空腹を感知したその瞬間に起動するのかどうか、という点である。前述の❶はそのような気がするし、❷はまづめを待っているような気もする。果たしてどちらなのか。

 

【B】を考察

紫外線と魚が動き出す時間帯

魚も人間と同じで、紫外線を浴びるとビタミンDを生成する遺伝子が起動し、体内でビタミンDを作りだす。ビタミンDはカルシウムの吸収を促し、骨の形成・成長に寄与する。さらに免疫向上や糖尿病の予防など、遺伝子の働きを調節するなどの重要な役割を担う。このため定期的に紫外線を浴びる必要が出てくる。

日中は日差しが強く、紫外線量も多いため、皮膚の炎症や遺伝子の破壊を避けるために、岩陰に身を潜めたり、砂の中に潜ったり、紫外線の届かない水深20m以深の深場に移動したりして、紫外線を避ける。しかし、まづめになると太陽光が弱く紫外線量も少なくなるため、生存に必要なビタミンDの生成を促す遺伝子(以下「ビタミンD生成遺伝子」という)を起動させるために、動き始める。つまり、まづめは弱い紫外線を浴びるために魚が動き出す時間帯なのである。

 

冬季はエサを取らず深場に身を潜める

先ほどの疑問に戻るが、こうした動きを考えると、食欲ホルモン生成遺伝子がまづめ以外のときに起動するとは考えにくい。ビタミンDの生成にこれほど慎重な行動を取っているのに、エサ取りの時は空腹後、(特に日中に)速やかに行動するというのでは、エサ取りのために自らを危険にさらすことになりつじつまが合わない。

このような推論は、冬季の動きから立証が可能である。冬季は、秋に食べたエサをすべて消化して胃の中が空っぽとなっているのに、エサ取りをしないで紫外線が届かない深場に身を潜めているからだ。

最後に重要な点を述べる。魚は人間と異なり紫外線の色を識別できる。どんな色かは想像もつかないが、色合いや濃淡などを明確に区別することができる。この能力があるからこそ、紫外線の濃淡に応じて適切な行動がとれるわけである。

 

「まづめ」の真相に迫る

これまで述べてきたことを整理すると、次の通りとなる。なお、前述のケース❶❷❸❹に該当するものを文末に示し、一部その理由を付け足した。

【まとめ1】

魚は骨を丈夫にするビタミンDを生成するために、毎日かどうか分からないが、定期的に弱い紫外線を浴びる必要があるので、「まづめ」に太陽光が当たりやすい所へ移動する。なお、紫外線は雲を通過するので、曇りの日も紫外線が降り注ぐが、線量は晴れの日に比べ6割程度に弱まる。6割の紫外線は魚にとって好都合と考えられる。
【→❷❸❹】

 

【まとめ2】

魚は胃の中が空っぽのときに弱い紫外線を浴びると、食欲ホルモン生成遺伝子が起動して、エサ取りを開始する。紫外線を浴びるタイミングはビタミンDと同様「まづめ」と想定される。 【→❷】

 

【まとめ3】

魚は食欲ホルモンが分泌されると、胃の中がパンパンになるまでエサ取りを止めない。【→❶❷】(❶については、その前のまづめにホルモン分泌を受けてエサ取りを開始しているが、満腹になっていないためエサ取りを続けている)

 

【まとめ4】

一方でいったん胃が満腹状態になると、胃の中が空っぽになるまでエサ取りをしない。その間も定期的に紫外線を浴びる必要があるため、まづめ時に日が当たる所へ移動する。 【→❸❹】(❸はエサ取りではなく、エサを目の前にしたときに反射的、本能的に食べた結果と想定される。❹はその本能がエサをのみ込むほど高いレベルではなかったと考えられる)

 

終わりに

まづめは、魚が持つ紫外線感知能力を生かし、食欲とビタミンDに関係する遺伝子を、弱い紫外線の力を借りて起動させるために行動を起こす時間帯である。魚にとってまづめとは、まさに生きていくための「希望の光」になっていると言える。