今年に入って、自宅にほど近い病院で“ドゲルバン病”と診断されました。いや、別に命にかかわる病気じゃありません。腱鞘炎(けんしょうえん)の一種です。私のは、腱を酷使したためそれを包む鞘(さや)が炎症を起こす狭窄性腱鞘炎。左手の親指を動かす腱の鞘が炎症を起こしていました。
症状が出てから数日はかなり痛みがあり、Tシャツ1枚脱ぐのもひと苦労。一番の治療法は動かさないことですが、仕事の都合上、車は運転しなくちゃならない、記事を書くのにパソコンのキーボードを打たなきゃならない、ご飯だって食べないと生きていけない。発症してから2週間ほどは無い無い尽くしの生活でした。
もう時効だから言いますが、車はずっと片手運転。キーボードは脱着可能なギプスをして打ちました。しかし、どれもこれも痛みを伴います。だから、せめてご飯くらいは奥さんに食べさせてもらおうと思ったら「なにバカなこと言ってるの。私はメイドじゃありません」と、にべもなく断られ、食卓に上がっていた豚肉のしょうが焼きを、不自由な手で泣きながら食べました。メイド喫茶に入り浸るアキバ系の人たちの気持ちが、今なら少しは理解できそうです。ともあれ、日常生活の中でどうしても動かしてしまうので、結局、完治するまで1カ月以上かかってしまいました。
ドゲルバン病になってまった原因は、釣りです。キャストしたフライを引っ張るストリップのやり過ぎでした。結局、私も釣りバカだったんですね。仕事でかなりの釣りバカたちを見てきたつもりでしたが、自分が釣りバカなのには気が付いていませんでした。いや、釣りバカと言っても決してバカにしているわけではありません。逆にこれは釣り人に対する褒め言葉、勲章のようなもの、私はそう考えています。「初めて自分で自分を褒めてやりたい!」なんてことを言うつもりはありませんが、釣りは詰まるところ集中力と忍耐です。
例えば、いくらルアーのキャストが上手くても、魚が回遊してきた時にロッドを振っていなければ魚は釣れません。魚が回遊してきやすい時間帯というのも確かにありますが、相手は機械じゃない。常に同じ時間に回遊してくるとは限らないのです。そこで試されるのが集中力と忍耐。でも、私はそこにもう1つ付け加えたいと思います。それは“悪あがき”です。
ドゲルバン病と診断された私はその時、ちょうど海アメの最盛期を控えた時期だったので、思わず病院の先生にこう尋ねたのです。「先生、ギプスしてても釣りはできますか?」。すると先生はピシャリとこう言い放ちました。「悪あがきはおやめない」
(平田 克仁)