道内各地で取材していると、出張先の宿でときたま驚くべき事態に遭遇することがある。以前、ある民宿の玄関に足を踏み入れたとき、いきなり面食らった。吹き抜けの玄関の壁や天井がモゾモゾとうごめくカメムシで埋まっていたからだ。カメムシは部屋の中にもいて、おちおち横にもなれない。確かにリーズナブルだが、いくら安くてもこれじゃ…という感じだ。

虫絡みでもう1つ。とある旅館に泊まったときのこと。そこは大きな露天風呂が自慢なのだが、湯船に向かうと花びらのような〝何か〟が大量に浮かんでいるのが見えた。「宿側が気を利かせて花びらでも浮かべたのかな?」と思ったが、それは何とすべてガの死骸! 露天風呂の暖気につられて集まったガが、次々と湯船にダイブしていたのだ。身の毛がよだつとはこのことだが、嫌悪感の対象は人に向けられることもある。

海沿いのとある宿に泊まったときのことだ。晩ご飯を食べに階下へ下りると、土木工事関係の男たちと、還暦一歩手前と思われる女将が、活字にすると逮捕されそうな下ネタで盛り上がっていた。スナックなどでは特段珍しくもないので構わずにいたが、こともあろうにこの女将、どこの席に座ればいいのか分からず戸惑う私をほったらかして猥談(わいだん)に夢中である。

ようやく席に座れたと思ったら、今度は汁物を運んで来た女将がしなを作って「これは名物のカジカ汁でちゅ」とのたまう。「はっ?」一体何が起きたのか理解できずに混乱する私。だが女将の暴走はとどまることを知らない。「これは地元で生産されているおいしい牛肉でちゅ」、「このホタテも地物だからとってもおいしいんでちゅよ」と赤ちゃん言葉を連発し、しかも当の本人はしてやったりの〝したり顔〟だ。

気の利いた返事でもすれば満足なのだろうが、そんな気には到底なれず気のない返事を繰り返すと、私への関心を失った女将はさっさと厨房へ引っ込みタバコをプカプカ。小汚いキッチンの陰で紫煙をくゆらすその姿は、汚れのない赤ちゃんとは正反対の半端ないアバズレ感が満載だ。以降、そこには泊まっていないが、最近、「怖いもの見たさ」で泊まってみたい欲望にかられる自分が怖いでちゅ!?
(本紙・平田 克仁)