私を含めかつて毎週釣り場を取材で回っていた本紙スタッフの3人は、「実釣班」と呼ばれている。名前からすれば「実際に釣る班」なのだが、実は自分でサオを出す機会は意外に少ない。実際に自分で釣っても記事にできるのは1本だが、その時間に釣り場を回れば2、3本記事が取れる可能性があり、自分でサオを出すのは効率が悪いからだ。

サオを出しても釣れるとは限らないし、仕事として考えれば自分でサオは出さずに釣り場を回るのが正解なのである。だから腕が鈍るのか、それとも元々センスがないのかは分からないが、実釣班の3人はかつて自分でサオを出した時に、それぞれがちょっぴり恥ずかしいエピソードを持っている。

例えば顔も態度もデカイNは新人の頃、よせばいいのに慣れないサケ釣りにチャレンジしたばかりに、ぶっ太いハリが手にグサリ! 離島の小さな病院へ駆け込んだ経験がある。競馬好きで年甲斐もなくちゃらんぽらんのMは、船でジギングの最中、魚を取り込む際に外れたジグが反動で頭に命中してフックがグサリ! もちろん釣りは中止して、大急ぎで帰港して病院に急行したという。そして私ことHも先日、笑えない事件がぼっ発した。

休日のその日、私は海アメマスを釣るため、とある海辺を訪れた。当日は風が強く、風を背にしてフライロッドを振っていたのだが、風が強過ぎて思うようにフライが飛ばない。そうすると「もっと、もっと遠くへ」という意識が強くなり過ぎて余分な力が入るのが道理。

そんなとき突然頭に「バシッ!」と強い衝撃が走る。力一杯振っていたフライラインで自分の頭を思い切り叩いたのだ。「痛てててて…」と顔をしかめ、頭をなでたが、その手がハタと止まる。なんとフライが右の耳にグッサリ刺さっているではないか!? しかも具合の悪いことに、ハリ先は出ているがカエシは耳たぶの肉の中に入ったままだ。

気が動転していた私は自力でフライを引き抜くことを決心。あえてフックを完全に貫通させてカエシを露出し、ペンチでつぶして引き抜いたのだ。低温と強風で耳の感覚がまひしていたのが幸いだった。もし夏場にこんなことをしたら、痛すぎてきっと悶絶(もんぜつ)、いや、気絶しただろう。

あの薄っぺらい耳も、貫通させるには意外に力が必要だということをこのとき初めて知ったが、できれば一生知りたくなかったというのが正直なところだ。

 部位は違えど、いずれも自分を釣った経験があるN、M、Hの3人。この3人のイニシャルを並べると、皮肉にもこんな言葉が出来上がる。

No More Hook!(もうフックなんていらない!)

(本紙・平田 克仁)