「明かりを消してテレビだけになった薄暗い部屋で『オレは家族全員が死ぬのを見届けてから死にたい』と、突然おやじが言ったからビックリした。ビールを飲んで赤くなっているはずのおやじの顔は、テレビの光で青白くて寂しそうだった」

釣りなんて当たりが止まっちまえばまったく暇だな。磯の周りをうろうろ歩き回ったって、なんか珍しい物が流れ着いているわけじゃないし、すぐに飽きてしまう。潮だまりにイソガニを見つけたときぐらいかな、退屈しないのは。「カニさん、朝ごはんだよ」なんてつぶやきながら大きな塩イソメをあげてさ。だけどそれも30分が限界だな。

「『そんなこと絶対に無理だな。だいたいさ、よれよれのジジイになったらお前らになんにもしてやれないから生きてたってしょうがないし、迷惑かけるだけだもな』と笑うおやじの顔を見ているうちに、これがおやじの優しさなんだと思ったら涙がこぼれた」

20歳のころの僕は、自分は40歳にならないと思っていた。40歳になったとき、人はやっぱり年を取るものなんだと思いながら、50歳になる自分を想像できずにいた。そして今、僕は、年老いて死ぬときが来ることを理解できずにいる。

「昔はよく一緒に釣りに行ったね。おやじ、すごい楽しそうでよっぽど釣りが好きなんだと思ったのに、このごろ愚痴が多いね。でも、ホントに好きだったらいつでも楽しそうにしてなきゃダメなんじゃない? つらいときも。それが好きってことなんだよ。最近は時間が合わなくて一緒に行けないけど、また行こうね。ジジイになって動けなくても大丈夫だよ。ちゃんと連れて行くから。でも、遠投は無理だね(笑)」

 しゃらくせぇメールだなぁ。俺なんて気が短い上に落ち着きもない最低の男だし、自然を愛でるなんて美しい心も持ち合わせていないからね。あーあ、時間を持て余してケータイのメールチェックしてるなんて俺も終わったな。まぁいいや、家族で1回食べる分ぐらいは釣れたから帰るか。ちっちぇ幸せだな。
(菊地 保喜)