毎週、人気のない海沿いを走り、目を皿のようにして釣り人を探す日々を送る私。そんな私のホッとするひとときが、缶コーヒーで一息つくブレークタイムだ。

田舎の国道沿いに広がるモノトーンの雪景色の中、今にも雪に埋まりそうな古びた商店を見つけ即停車。軒先に並んだサビの浮く自販機のディスプレイを見ながらHOTの二文字を探す。が、COLDしかないこともある。こんなに寒いのにHOTがないなんてどういうこっちゃ!ちなみにコーヒーは日に何杯も飲む。車のカップホルダーにはいつも缶コーヒー。一日ならそう…4、5缶はいくだろう。甘い物も好きなので砂糖入りも買ったりするが、飲んだ後に胃が不快感を訴えるのは歳のせいだろう。だからたいていコーヒーはブラックだ。

そんな“コーヒー中毒”の私だが、自販機を利用する機会が多いためか“変りダネ”に出くわすことがある。たとえばこの間、遭遇した自販機はこうだ。コインを投入してコーヒーのボタンをグイッと押すと、商品が転がり出てくるやいなや「謝謝(シェイシェイ)!」と叫ばれた。にゃんだ、にゃんだ、にゃにごとだ!?「ありがとうございました」ことによっては「サンキューベリーマッチ」くらいならまだ許そう。しかし、いくら異国の観光客が増えてきているからといっても、中国語でしゃべるとは一体どういうことなのだ。そもそも自販機がしゃべる必要があるのか。私はこれがはなはだ疑問だ。

こんなのもあった。こちらもおしゃべりなのは同じだが、なんと「オブリガード!」とポルトガル語なのである。意味もなく思わずキョロキョロと辺りを見回してしまったのは、予想だにしない状況に出くわし、混乱が頂点に達した人間の正常な行動である。果たしてポルトガル語圏の人たちが多く住む地域なのだろうか?そのときはそう思ったが、ないない。

 極めつけはこれ、歌を歌う自販機。24時間四六時中、いつでも演歌を歌っているのである。コブシの回し具合がいい感じだ、などと言っている場合ではない。初めは誰かいるのかと思った。風の音しかしない海沿いのパーキングで、かすかに歌が聞こえてきたのだから無理もない。しかし、どんどん自販機目指して進むうち、はたと気が付く。「こ、こ、この自販機歌ってる!」なぜ歌うのか。そこが演歌の名曲をいくつも生み出した荒波の日本海だからか。これら「おしゃべりな自販機」に出会うたび、私はいつもこう思うのだ。疲れた体を温め、ホッと一息つくためのHOTなコーヒーさえ売ってくれればいいよ、と…。 (平田 克仁)