先日、釣りが目的で米国のアラスカを訪れた。ラストフロンティアと呼ばれる自然は雄大で、面積は北海道の約20倍という広大さ。半面、緯度が高いので冬が長く、寒さは北海道以上に厳しい。驚いたことに、州都のジュノーへ行くには飛行機か船しか手段がなく、陸路はどこにもつながっていないという。道路が造れず、トンネルも掘れないような険しい土地、それがアラスカなのだ。人の手が及ばない人跡未踏の地も多く、圧倒的な大自然は「手つかず」というよりも、「手がつけられない」といった方が正しいのかもしれない。

世界的にも類いまれな自然を有するアラスカだが、彼の地を訪れて感じたのは、意外にも自然が豊かじゃないかもしれない、ということ。今回訪れた川は針葉樹の森の中を蛇行し、川岸は密度の濃いうっそうとした森だったが、そこに生き物の気配を感じるのは難しい。確認できたのは、針葉樹のてっぺんで羽を休めるハクトウワシと、運良く川岸に現れたアメリカクロクマ、そして川通しに飛び交う海鳥と蚊のみ。通常こういった川なら、道内であれば河畔林にクモや甲虫類が必ずといっていいほど見られるし、チョウやガ、ハチ、アブ、毛虫なども珍しくない。

ところがアラスカの森では、こういった虫たちをほとんど見つけられなかった。季節的なものか、その土地特有のものか、それとも太古の昔から虫が少ないのか。ムースやカリブー、グリズリー、オオカミなど、大型のほ乳類はたくさんいるのに、なぜか虫類は呆れるほど少ない印象を受けた。

川岸に露出した灰白色の土は、砂のようにキメが細かく、もろかった。土砂崩れもあちこちで起き、至る所がパサパサと乾燥している感じだった。虫が少ないのは、1年の大半を支配する寒く厳しい気候に加え、数m下が永久凍土という土壌に、絶対的に栄養分が不足しているせいなのか。魚や哺乳類は大きく、フィッシングやハンティングに関しては非常に魅力的な土地だが、こと〝自然の豊かさ〟という点でいえば、北海道は決して負けていないように感じた次第である。
(本紙・平田 克仁)