われわれ釣り人はその趣向の違いでフィールドが淡水と海水に分かれるが、海釣りに大きく関わってきそうな問題が世界的にクローズアップされている。海洋ゴミの問題だ。海は地球の表面積の7割を占め、深海エリアは実は宇宙よりも未解明の部分が多いといわれる。そんな広大無辺な海から見ればチリにも等しいゴミが積もりに積もって近年、海洋汚染が深刻な問題になっているという。

北海道を除く日本海沿岸の広い地域で行われた調査によると、海洋ゴミのうちプラスチック類が約6割と最も多いそう。これら石油化学製品は分解されず、ある物は海上を漂い(漂流ゴミ)、ある物は海岸へ漂着し(海岸漂着ゴミ)、ある物は海底へ沈む(海底ゴミ)といった具合に、どこまでいっても原形をとどめてなくならない。海洋研究開発機構(旧海洋科学技術センター)の2002年の報告では、静岡県の駿河湾の水深2200mの海底には、ビニールの買い物袋がうずたかく山積みになっているという。東日本大震災以前の東北地方の水深6500mの深海でさえ、海底はごみだらけというから驚き。日本海溝の6272m地点がマネキンバレーと呼ばれているのは、そこにマネキンの頭が転がっているからだという。

しかしこれらは決して他人事ではない。海洋ゴミに含まれるいくらかは、間違いなく釣り人が出したゴミなのだ。イソメの空き箱や空のパックは、探そうと思えば釣り場のどこかで必ず見つけることができるし、港や船の上でタバコをふかし、吸い殻をポイと海へ捨てするのは見慣れた光景だ。釣り人ではないが以前、港の目の前にある漁師の家から出てきた年配の主婦が、やにわに防波堤の胸壁に上がり、消波ブロックの隙間に家庭ゴミをぶちまける姿に度肝を抜かれたこともある。

そこにあるゴミの名前が研究者たちの間に通称名として定着したマネキンバレーのように、「今日は〝空き箱岬〟へ行こう」とか、「明日は波が収まりそうだから〝吸い殻のサキ〟に入れそうだゾ」といった会話が近い将来、釣り人同士の間で交わされることがないよう祈りたいところ。もはやシンガポールのように歩きタバコやゴミのポイ捨て、つば吐き、公共の乗り物内での飲食といった些細なマナー違反に至るすべてを罰金の対象にしなければ、ゴミ問題に代表される釣りのマナー違反はなくならないのかもしれない。そんな情けないことにならないよう祈ってはいるが、そんな祈りも海洋ゴミ同様、腐らずに当初の原型をとどめたまま、いつまでも私の心の中を漂うばかりである。
(平田 克仁)