北海道の釣り人というのは、魚を含めて豊かな自然があることが当たり前すぎて、「ありがたみ」を感じることがほぼない。私が、北海道が恵まれていると思うのは、取材した人がたまたま道外の人だったとき。彼らの口からは大抵、「北海道に住むあなたがうらやましい」といった文言が異口同音に語られるからだ。しかし、異口同音に語られるのは決していいことばかりじゃなく、耳の痛いこともある。

私の知人に、北海道へ移住して来た人がいる。釣りは移住前からやり込んでいて、腕は確かだ。そんな彼に言わせると、道内の釣りのマナーは決してほめられたものではないそう。例えば、ごみ。少なくとも彼の出身地では、「釣り場にごみを捨てるなんて考えられない!」という感じなんだとか。最近はサケ釣り以外でも見られるようになった場所取りも、「まるで自分の土地のように釣り場を占拠するなんてナンセンス。私の故郷では、そんな真似をするのはただの1人もいませんね」と首を傾げる。

彼にはこれまで何度か取材に協力してもらったが、以前、記事で紹介した釣り場の常連に、こんなことを言われたことがあるという。「お前、いつも新聞に載っているやつだろう。今度紹介したらこの釣り場は出入り禁止にするからな」って、えーっ! な、なにソレ!? という感じだったらしい。経験上、こういう輩に限って「紹介すると人が大勢来てゴミが増えるから」と、もっともらしいことを言うのだが、真意はたいてい別のところにある。釣り人が大勢訪れると、自分のいつものポイントが奪われるので嫌なだけなのだ、たぶん…。

わが家で一番体格のいい雄の猫は、いつも寝心地のいい場所にいる。しかし、ちょっとトイレやご飯を食べに行った隙に、まんまと他の猫に場所を取られてしまうことがある。それでも「ここはオレ様の場所ニャ!」などと野暮なことは言わず、抜け目のない猫の顔を「ズル賢いやつめ」という感じで1、2度ペロリとなめてから、すごすごと他の場所を探すのだ。どうやら猫の世界にも、釣りの世界と同様、居心地のいい場所は「早い者勝ち」という暗黙のルールがあるらしい。そして少なくとも、わが家に存在する暗黙のルールを破る身勝手な猫は1匹もいない。

(本紙・平田 克仁)