「釣り点描」一覧
つりしんコラム
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お得なごみ拾い
「記事に書くのはいいがゴミのことも書いてくれよ」「記事で紹介されたおかげでゴミが増えた」。中には「記事のせいでよそ者がいっぱい来たから俺らの釣り場がなくなった。お詫びに釣り場のゴミ拾ってけや」。取材では釣り人たちのこういったお願い、おしかり、はたまたお門違いな暴言とも取れるリアクションを受けることがある。「おっしゃる通り、ポンッ!」とひざを叩きたくなる半面、「それは少し違うのでは…」ということもあ…
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760円
神様は本当にいるんだろうか。太田神社の定灯籠(じょうとうろう)が闇を照らすこの光景は何百年も前から変わらず続き、それを見つめる人は、年老いていつか死と向かい合う。己が生きた証しなど初めから存在しないもののように思え“もし神様がいるのなら”と暗くなり始めた海と向き合った僕には、道道(=北海道道)に続くオレンジ色の街灯が悲しみのかたまりに見えた。 「むきエビってこれだか」スーパーの鮮魚売り場にいた…
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ノブレス・オブリージュ
伝統は重い。重いのは、それが積み重ねてきた歴史があるからだ。伝統を重んじる国といえば英国である。「築120年です」などと平気で言ってのける石造りの住宅や歴史的建造物の並ぶ光景は、ブラウン管を通しても「重い」。伝統を守るのがこの国の伝統と言ってもいい。 対して日本はどうかといえば、スマホを買い換えるくらいの気軽さで古いものを捨て、すぐに新しいものに飛びつきがちだ。ロンドンに留学したことのある夏目漱石…
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イニシャルの暗示
私を含めかつて毎週釣り場を取材で回っていた本紙スタッフの3人は、「実釣班」と呼ばれている。名前からすれば「実際に釣る班」なのだが、実は自分でサオを出す機会は意外に少ない。実際に自分で釣っても記事にできるのは1本だが、その時間に釣り場を回れば2、3本記事が取れる可能性があり、自分でサオを出すのは効率が悪いからだ。 サオを出しても釣れるとは限らないし、仕事として考えれば自分でサオは出さずに釣り場を回る…
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あなたのマナーはイカがですか?
地元にいると気が付かないが、実は北海道は運転マナーの悪い地域なんだそう。車で走らないことには仕事が始まらない私は、そんなマナー違反に遭遇する確率がとても高い。そんなとき私は「ちゃんと安全確認しろこのイカが!」とか、「そんなタイミングで出てくんじゃねえこのタコ助が!」などと悪態をつくのだが、セリフにいちいち水産物の名前が入るのは職業病ではなく単に下品なだけである。そこで今回は自戒の念を込めつつ、私…
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あうんの呼吸
いつの頃からなのかは知らないが、古来、日本人には言葉にしなくても相手が何をいいたいのか、何をしてもらいたいのかが分かる「あうんの呼吸」をくみ取る能力がある。赤ん坊から大人へと成長していく過程で、周囲とコミュニケーションを交わすうちに自然と備わるこの後天的な察知能力は、外国人にはなかなか理解されないことが多い。しかし最近、日本人にもこの能力に欠ける人を見かける機会がずいぶんと増えた。 以前、とある居…
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NOと言わない釣り師たち
誰もが嫌がることを人に頼んでやってもらうとき、「NO」と言われないようにするための人種ごとの頼み方というのがあるそうだ。お願いするのがアメリカ人なら「これをやれば君はヒーローになれる」とけしかけ、ドイツ人なら「これが規則だから」とクソ真面目にいえばいいのだそう。そして日本人に対してはこう言えばいいのだとか。「大丈夫、みんなやってるから」。 誰が考えたのかは知らないが、日頃から体裁や世間体を気に…
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進化すべきは釣り人か
現在、数千万種とも言われる地球上の生物は、元をたどればすべてバクテリアに行き着くと言われていわれています。バクテリアが誕生したのは深い海の熱水噴出口付近とする説が現在は有力。地球最初で最古の生命は、どうやら海から生まれたようです。この小さな生命体が46億年分の進化と生物学上の分化を繰り返し人類へたどり着く訳ですが、私にはこれがどうにもピンときません。“進化”というものが直感的に理解できないからです…
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私のサケは左利き
このコラムの連載タイトルは「釣り点描」だが、プロレスには「吊り天井」という技がある。マットにあお向けになり、手足を使って相手を吊り上げるこの必殺技は、特にルチャ・リブレ系のレスラーが得意とした。が、平成の今ではとんと見かけなくなったノスタルジックで古典的な昭和の必殺技だ。 昭和といえば、「私の私の彼は~左利き~♪」というフレーズで、即座に振り付けまで思い出せるあなたは正真正銘バリバリの昭和世代。「…
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おおすけよ、叫べ
自宅から歩いて3分とかからない気軽さから、たびたび妻とのれんをくぐる居酒屋がある。先日、そこの月替わりメニューに「オオスケの刺身」という料理があった。「刺身だからきっと魚に違いないが、一体なんの魚だろう。語尾が似ているマスノスケ(キングサーモン)かな」と思っていたら、やはりそうだった。そして、東北地方に残された民話にはサケ(シロサケ)の大親分が「おおすけ(大助)」の名で登場する。 昔、小国郷(…
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1/f のバラード
強風で波頭の砕ける海を見ながらハンドルを握り、しんしんと粉雪の舞うアイスバーンの峠道を目的地に向かってひた走る。春はまだ砂粒ほどの気配も感じられず、車窓から見えるのは、色彩を失った無機質でふさぎがちな景色だけだ。 こんな景色が続けば続くほど、心がトーンダウンのスパイラルにからめとられ、なかなか浮揚のきっかけがつかめない。そんなとき、小さく萎えかけた私の心を癒してくれるものの1つが、車のカーステレオ…
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2番目の本物
初心者はリーズナブルな物でいい。いや、初めこそいい製品を買うべきだ—。 初心者が初めて釣りザオを買う時、ベテランのアドバイスは上記の2通りに分かれる。さて、初めての1本は少々値が張ってもいい物を選ぶべきか、それとも性能はそこそこでもリーズナブルな物がいいのか、これはなかなか難問だ。 大胆に言ってしまえば、世の中には「本物」と「本物以外」がある。分かりやすいのは絵画の世界。ピカソやダ・ヴィンチが描い…
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釣りと登山
新潟と群馬の県境に谷川岳という山がある。実はこの山、世界一遭難者が多い。世界に14座ある8000m峰での死者数を合計しても、この山のそれに及ばない。それでも毎年、頂を目指すクライマーは後を絶たない。 谷川岳だけに限らず、山で不幸な事故が起こったとき、その山が入山禁止になることはない。しかし釣りの場合、事故が起きた場所が立ち入り禁止となるケースは枚挙に暇がない。 登山と釣り、両者の間で立ち入りを制限…
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森の記憶
わずか1年の狂いもなく、一定の周期で木の大きく生長する森がある。 なんとも不思議な出来事で、森という自然の象徴に対してなにか“人為的なもの”が作用しているような違和感がある。が、実際はその逆。人のちっぽけな力など及ばない自然の偉大なワザが、森の木を大きく生長させているのである。 アメリカにあるというその森。そこには「17年ゼミ」が大量に生息している。長い年月を土の中で幼虫として過ごすこのセミは、産…
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あきれた見聞録「法事は呆事?」
今春、私は「法事の達人」になった。1か月半ほどの間に法事が7件も立て込んだのだから無理もない。しかし、これだけ短期間に法事が集中すると、中には「あれ?」と思うような場面に出くわすことがある。 それはある通夜の席でのこと。どことなくブルドックを連想させる顔つきの坊さんがお経を上げ始めた。しかしすぐに咳き込みだし、まともにお経が上げられない。「南~無~阿~弥~ゲホゲホ、南~無~阿~ゲホゲホ、南~ゲ…