「釣り点描」一覧
つりしんコラム
-
クリスマス
プレゼントを枕元にそっと置き、それからベランダの戸を静かに開けて雪の上に足跡を付ける。サンタクロースの足跡だから、赤い長靴にちょうどいい少し大きめがいいかな。そして僕はビールを飲みながら酔っぱらいになり、小声で「メリークリスマス」とつぶやく。 「サンタクロースってホントにいるの?」娘たちに聞かれるたび、僕は決まって「いるさ」と答えてきた。15年も住んだ市営住宅だったからサンタクロースが来たらしい雰…
-
初夏に降る雪
若い頃は人生を無駄にしているようで眠るのがもったいなかった。結論の出ない〝生きる意味〟を夜通し考えながら酒をあおり、朝を迎えて無駄な時間を過ごしたと後悔する。そうやって積み重ねた1秒1秒をすべて覚えていたいのだが、昨日のこともすぐに忘れてしまい、思い出をつなぎ合わせてみると僕の人生は限りなく短い。 毎朝、愛犬のバリーとプリンを連れて散歩に出る。ボロマンションの脇は琴似発寒川。ヤマベ解禁日の朝もいつ…
-
貧乏
配給所から届いた木箱のもみがらの中には「雪の下」というリンゴが隠れ、一斗缶の厚めのビニール袋には「かりん糖」が詰め込まれていた。渡島と檜山の境目にあった鉱山は何もかもが雪に覆われ、正月を迎える準備はすっかり整っていた。 12月31日の朝はパンツまで取り替えて新しい年に備える。今日から明日へ続くだけの一日なのに、大みそかは特別らしい。テーブルの上の様子はいつもと変わりなかったが、石炭ストーブに置かれ…
-
思い
急な坂道を下った先の小さな集落は雨と濃い霧にすっぽり包まれ、数えるほどしかない家の何軒かは人が住んでいないようで荒れ果て、悲しみの中にたたずんでいるようだった。軒下を通るような狭い道を静かに海岸に向かう。沖に投げたはずの仕掛けは初めから存在しないもののように霧の中に吸い込まれ、僕は波音の中で初めて訪れた集落の空気に同化する。 砂粒がきしむような足音で振り返ると、おじいさんが立っていた。狭い空き地に…
-
パン屋のキャッシュバックキャンペーン!?
いつもは道内を走り回って取材をしているが、毎週月曜と火曜は会社で原稿を書き、雑用をこなすのがルーティンである。出社前にはいつものパン屋で、朝食と昼食を兼ねるパンを購入してから出社するが、そのパン屋の価格表示が変なことに最近、気が付いた。いつも店員にいわれるがままにお金を払い、ろくにお釣りも確認せずに購入していたので、今まで分からなかったようだ。おかしな価格の表示に気が付いたいきさつはこうだ。 ある…
-
フルーティーな魚たち
みかん、すだち、かぼす、ゆず、レモン…。名前を聞いただけで思わずツバの出そうなかんきつ類だが、実はこれらが魚の名前だとしたら驚くだろうか。 最近、若者の魚離れに歯止めを掛けるため、“フルーツ魚”と呼ばれる魚がさまざまな場所で提供されている。生臭さを抑えるために、かんきつ類を飼料に混ぜ与え、育てているという。「みかんブリ」は、みかんを飼料に混ぜて育てたブリのこと。「みかんダイ」も同様だ。「ハーブサバ…
-
空き箱岬
われわれ釣り人はその趣向の違いでフィールドが淡水と海水に分かれるが、海釣りに大きく関わってきそうな問題が世界的にクローズアップされている。海洋ゴミの問題だ。海は地球の表面積の7割を占め、深海エリアは実は宇宙よりも未解明の部分が多いといわれる。そんな広大無辺な海から見ればチリにも等しいゴミが積もりに積もって近年、海洋汚染が深刻な問題になっているという。 北海道を除く日本海沿岸の広い地域で行われた調査…
-
ドゲルバンの悪あがき
今年に入って、自宅にほど近い病院で“ドゲルバン病”と診断されました。いや、別に命にかかわる病気じゃありません。腱鞘炎(けんしょうえん)の一種です。私のは、腱を酷使したためそれを包む鞘(さや)が炎症を起こす狭窄性腱鞘炎。左手の親指を動かす腱の鞘が炎症を起こしていました。 症状が出てから数日はかなり痛みがあり、Tシャツ1枚脱ぐのもひと苦労。一番の治療法は動かさないことですが、仕事の都合上、車は運転しな…
-
川釣り事情
かつて、ヤマベの解禁日は川釣り師にとってビッグイベントだった。人気河川にはこの日を待ち焦がれた釣り師があふれ、出遅れようものなら車を止める場所すら見つからないほどの込みよう。人、人、人で、薄暗いうちから川の中を入れ替わり立ち替わり歩き回るものだから、ヤマベなど釣れやしない。それでも解禁日が待ち遠しくて仕方がなかった。 ある年の解禁日は日曜日だったが、川は静まり返っていた。その前の年も釣り人は少なく…
-
節電は魚族保護につながるか?
小樽運河に大量の「迷いザケ」が現われ、観光客を驚かせている。運河のサケは、流れ込む川に一部が迷い込んで力尽き、あちこちに亡きがらをさらしているそう。地元は「印象が悪くなる」と困惑しているという。 まあ確かにそうかもしれない。命の営みとはいえ、見た目は決して良くはない。その上、腐敗臭は強烈だから、問題視されるのも理解できる。地元では、サケを遡上させないよう柵を設置する計画があると聞く。だがちょっと…
-
北海道の「宝物」
アフリカに生息していたサイの仲間、キタシロサイが絶滅の危機に瀕している。生息していた、と過去形なのは、野生種はすでに絶滅しているからだ。つい先日、チェコの動物園にいた雌1頭が死んだため、地球上に生存しているキタシロサイはわずか4頭だけ。絶滅は避けられない情勢だという(※2024年2月現在、残っているのは雌2頭だけに。事実上、絶滅が避けられない情勢となっている)。 長年繰り返される内戦や紛争で生息地…
-
ダイオウイカ
道民にこよなく愛される釣り物、イカ。道内で釣れるイカは主にマイカ(スルメイカ)、ヤリイカ、マメイカ(ジンドウイカ)の3種がいるが、近年は温暖化の影響か、アオリイカも釣れるようになってきた。しかし昨今、日本人が最も好きなイカを挙げるとするなら、それはダイオウイカかもしれない。 ひとたび浜に打ち上げられ、網にかかろうものなら、テレビ各局が即座に伝えるほど、この深海の巨大な住人に対する国民の注目度は高い…
-
ヒューズ外しがない!
この間、よんどころのない事情で短期間にレンタカーを4台乗り継いだことがあった。そのうちの1台で出張したときのことだ。 日没後、宿にチェックインした後で「もしかしたら夜釣りをしている人がいるかもしれない」と思いつき急きょ、港へ向かった。結果からいえば、釣り人はいたが魚は釣れておらず取材は失敗。まあ、こんなことは日常茶飯事なので問題ないが、本当の問題はその後に起きた。 宿に戻るため車に乗り込み、キーを…
-
サクラ
「明日は雨だべ」。背中越しに聞こえたしわがれ声に振り向くと、魚のウロコだらけのカッパを着た老漁師が立っていた。穏やかな日差しの中で釣りをしていた僕は意外な言葉に驚き「こんなにいい天気なのに?」と聞き返す。「雨のにおいしねが」。におい?モヤッとした春の風景の中で僕が感じ取れるのは、水色のカッパが発するあきれるほどの生ぐささだけだった。 「なんも釣れねべ。わざわざ来たのにすまねな」。赤黒く潮焼けした…
-
北海道の自然はアラスカを超える
先日、釣りが目的で米国のアラスカを訪れた。ラストフロンティアと呼ばれる自然は雄大で、面積は北海道の約20倍という広大さ。半面、緯度が高いので冬が長く、寒さは北海道以上に厳しい。驚いたことに、州都のジュノーへ行くには飛行機か船しか手段がなく、陸路はどこにもつながっていないという。道路が造れず、トンネルも掘れないような険しい土地、それがアラスカなのだ。人の手が及ばない人跡未踏の地も多く、圧倒的な大自然…
-
魚の神頼み
先日、大相撲初場所千秋楽をテレビで見た。嫌いじゃないがそれほど興味もない私が見るくらいだから、かなりの数の人が観戦したのではと思っていたら、瞬間最高視聴率は37・5パーセントもあった。国民的関心事となった両横綱の取り組みは、いうなれば「品行方正で品格を備えた正統派」対「悪童をそのまま大人にした稀代のヒール」という図式。それでも四角いマットのヒール好きな私としては、相撲界きって「悪童」の方に肩入れし…
-
深読みのし過ぎ
行く末を推し量り、予測して、その通りになることを「読みが当たる」と言う。「読み」は魚釣りでも大切だ。いつごろ釣れるのか「読み」、どこで釣れるのか「読み」、どんな風に攻略すればいいのかを「読む」。「読み」は深いほど釣れる確率が高まるが、「深読み」にはある程度の経験が必要になる。「深読み」して裏目に出ることもあるが、それも経験のうち。以後さらに「深読み」できるようになるから、一概に裏目に出ることが悪い…
-
釣り場を変える特効薬
先日、日帰り釣り体験レディースツアーが留萌港沖堤で行われた。昨年も同じ場所で同じ時期にツアーが行われたのだが、そのときに比べると、釣果はダウンした感が否めない。この日の留萌周辺は、昨年同時期より海面水温が約3度も高く、昨年はあれだけ釣れた良型ガヤが、水の冷たい深場へ移動してしまったのだ。晴天でかつ日中の釣り、というのも追い打ちを掛けた。そんな悪条件にも関わらず、26人中、ボウズが1人だけだったのは…
-
釣れない北の大地
北海道って釣れないですよね―。 とある川岸でシングルハンドのフライロッドを振る道外アングラーYさんの唐突な言葉に、私は意表を衝かれた。「何のあてもなくフラリと訪れて釣れるほど北海道は甘くないですよ」「そ、そうなんですか!?」思わずひるむ私。「だって北海道の川は我々から見ればルールのない無法地帯。漁協が管理して定期的に魚の放流されている道外の川のほうがよっぽど魚影が濃いですよ」。いやびっくり、よもや…
-
猫にも劣る人
北海道の釣り人というのは、魚を含めて豊かな自然があることが当たり前すぎて、「ありがたみ」を感じることがほぼない。私が、北海道が恵まれていると思うのは、取材した人がたまたま道外の人だったとき。彼らの口からは大抵、「北海道に住むあなたがうらやましい」といった文言が異口同音に語られるからだ。しかし、異口同音に語られるのは決していいことばかりじゃなく、耳の痛いこともある。 私の知人に、北海道へ移住して来た…